いくつかの恋をして来たし
いろんな経験して来た
手を繋ぐ そんなことくらいじゃ
子どもじみてもの足りなかったのに…
点滅してるのは 信号だけじゃない
走ったせいで息を弾ませて隣を見る
あなたはいつもと何も変わらずに
少し先を歩く その気持ちわからなくなるよ
出典: ふいに/作詞:秋元康 作曲:渡辺泰司
ここまでの歌詞のあいだに経過した時間は、一瞬~ほんの数分でしょう。
そのワンシーンを刻むように、「今のは何だったんだろう」と自問自答している女性。
彼の行動はあまりにもさりげなさすぎて、特に深い意味はなかったようにもみえます。
この彼は、きっとふだんから誰にでも優しいのでしょう。
道路を渡るときに、かばってくれた…。
たったそれだけの他愛ない行動の中に、どうにか彼の意図を見出したくなります。
女性はおそらく斜め後ろから彼を見ているため、表情は分かりづらいでしょうね。
「誰にでもそうしているのか、それとも私だけに…?」。
そんな憶測が見て取れる歌詞です。
このあと、彼は彼女の繋いだ手をいつ、どんなふうに離したのか?
その答えは、この後の歌詞に出てきます。
彼がつないでくれた手は、いつ解かれたのか
ふいに 心のどこかにビリビリ伝わった(伝わった)
愛しさ 錯覚だったの?って
聞いてみたって きょとんとするんでしょうね?
だって 無意識のうちに右手を伸ばして(伸ばして)
私のハート掴んだんでしょ?
出典: ふいに/作詞:秋元康 作曲:渡辺泰司
「自分だけが感じた恋の兆しだったのかも…」。
いつでも恋愛のはじまりは、“独りよがりな勘違いかもしれない”と臆病になりがちです。
相手の“善意”を“好意”と勘違いしただけなんて寂しすぎるし、慎重になるのもある程度は仕方ないかも。
とくに友達関係から恋人関係に発展するときには、相手の気持ちをついつい探りたくなってしまいます。
この部分の歌詞は、
「こんなふうに優しくしてくれたってことは、無意識では大事に想ってくれてる…?」
という問いかけなのでしょう。
小さな思いやりに意味を見出してしまう女性の心、よく伝わってきますね。
そして、ここで判明する“繋いだ手の行方”
あなたはきっと 思い出してくれない
小さな出来事 一瞬だけの奇跡
出典: ふいに/作詞:秋元康 作曲:渡辺泰司
私は気になっていました。
<2人の繋いだ手は、そのあとずっと繋がれたままだったのかどうか>
ということ。
でも残念ながらこの部分の歌詞で、道路を渡り終えたらすぐ手を離してしまったことが判明。
しかも彼はその後、おそらく何事もなかったかのように振舞ったでしょう。
女性は「今のは一体…」と彼の心を深読みしてしまいます。
優しい人って、そういう意味でちょっぴり残酷なんですね。
「そんな気持ちがないなら、期待を持たせないで欲しいのに…」
という女性の心のつぶやきが聞こえてくるかのよう。
そして最後にこの一連の短時間のドキドキを、“奇跡”と呼ぶ女性。
すでに彼のことを、異性として意識してしまっています。
こうして、人は誰も“ふいに”恋に落ちていくものなんですね。
この歌詞の部分、すごく素敵…!情景に恋の気持ちを重ね合わせる
やさしさは木漏れ日のように
後から日向と気づくもの
偶然に木々がざわめいて
その暖かさにしあわせになる
出典: ふいに/作詞:秋元康 作曲:渡辺泰司
この詩的な表現のセンス、すごく好きです。
太陽のポカポカしたぬくもりって、とくに有難みもなく当たり前に日常に存在するもの。
ですが、いざそれがなくなってしまうと身も心も冷え切ってしまう。
そこで初めて陽の光の有難さを肌身で感じるのです。
この歌の彼も、そんな存在なのでしょう。
歌詞の中でとくに触れられていなくても、温かい人柄が伝わってくるかのようです。
その温かさは私だけのものなのか、それともみんなのものなのか…。
急にこみ上げる不安…彼がもし居なくなってしまったら?
ねえでも もし風が止んでしまったら
日陰に一人 取り残されるし不安でしょう?
あなたの背中 そばで見ていると
なぜかさっきよりも 歩き方 早く見えるよ
出典: ふいに/作詞:秋元康 作曲:渡辺泰司
「風がやんで、木漏れ日(のような彼)の存在がなくなってしまったら?」。
そう考えたとき、女性は急に不安になります。
一歩先をゆく彼の背中が、どんどん遠ざかっていくように見える…。
彼が何を考えているか掴めきれず、ひとり取り残されたような気持ちになる女性の姿を描いています。
片思いのトキメキの余韻に浸る
横断歩道 手を繋いでくれたこと
あなたのぬくもり 今も感じながら…
出典: ふいに/作詞:秋元康 作曲:渡辺泰司
手にリアルに残る、彼の手の感触。そこには彼のやさしさが残ります。
そのやさしさの意味を、あとあともずっと考えてしまう…。
ここ、ものすごく切ないですね。片思いの切なさで胸が苦しくなります。
誰にでもやさしい彼は、当然私にだってやさしい。
「分け隔てのない、ただの思いやりかもしれない…」。
それでも、どこかに私のためだけの特別な何かを感じ取るために、女性は手の感触を思い出します。
何度も何度も…。