いよいよサビの歌詞です。
このサビを会場中のファンが大合唱するところを想像しながら和訳を読んでみてください。
「君のママなんか縛ってしまえ
君のママなんか縛ってしまえ
君のパパなんかドアから締め出しちゃえ
僕は君のパパに嗅ぎ回れたくないよ
君のママなんか縛ってしまえ
君のママなんか縛ってしまえ
そして今夜、君の愛を全部分けてくれ
今夜、君の愛を全部ね」
中々、物騒な歌詞です。
ハード・ロックのパーティー・ソングですからこのくらいは当たり前なのでしょう。
ただし最初、ブライアン・メイは冗談で「タイ・ユア・マザー・ダウン」と歌ってみたそうです。
それを気に入ったのがフレディー・マーキュリー。
フレディーの後押しがなければもう少し大人しい歌詞になっていたでしょう。
何せブライアン・メイはクイーンに専念する前には中学校の講師をしていました。
こんな歌詞を書いては保護者に顔見せできないという良識があったはずです。
そんなブライアン・メイですが日本のファンの女の子が大好きでもあったよう。
詳しい話はここには書けません。
伊藤政則さんに尋ねると喜んで答えてくれるはずです。
「タイ・ユア・マザー・ダウン」の意味は物騒なものですが英語としての言葉の響きはキャッチーで素晴らしい。
ライブではさぞかし盛り上がった曲であったでしょう。
ロックの歌詞の雛形
「僕」が不憫に思える
You're such a dirty louse
Go get outta my house
That's all I ever get from your
Family ties, in fact I don't think I ever heard
A single little civil word
from those guys
出典: タイ・ユア・マザー・ダウン/作詞: MAY BRIAN HAROLD 作曲: MAY BRIAN HAROLD
歌詞を和訳して解説します。
「あなたはなんて汚いシラミ
私の家から出ていって
それが君の家族の固い絆とやらからいただいたすべての言葉さ
事実 まっとうな言葉など一言も聴いたことがないよ」
中々、ハードな場面です。
「僕」が不憫に思えてきます。
厳しいご家庭の割には口のきき方が酷いのは何故でしょうか。
自分の娘や何処の誰とも分からない男に対しては厳しく自分たちのお行儀に関しては甘いのでしょう。
何だかいつの時代も何処の国でも嫌なご両親っているのだなと思わされます。
他人のご両親からこれほど悪しざまにいわれる「僕」はどんな人物なのかとも思うのです。
クイーンがこうしてティーンネイジャーに寄り添った歌詞を書いていたことの影響は大きいもの。
その後のハード・ロックやヘヴィ・メタル・バンドもこうした歌詞を書くようになります。
クイーン以前はザ・フーなどがティーンネイジャーに向けた歌詞を書いていました。
ただ、ここまでティーンネイジャーの視点に降りた歌詞は当時の英国ロックでは珍しかったでしょう。
その後の多くのロック・バンドの歌詞の雛形を創ってしまったのがクイーンです。
パーティーに行かないパーティー・ソング
頑固すぎるご両親
But you know I don't give a light
I'm gonna make out all right
I've got a sweetheart hand
To put a stop to all that
Grousin' an' snipin'
出典: タイ・ユア・マザー・ダウン/作詞: MAY BRIAN HAROLD 作曲: MAY BRIAN HAROLD
歌詞を和訳して解説します。
「でも君も分かっているのさ 僕は光を与えられなくても
うまくやれるってことを
僕は恋人の手をとって
ガタガタ言ってくるのをすべてやめさせてやるさ」
「僕」の心は鋼でできています。
だからといって大したことはできないのですがご両親の悪口くらいは止められるのです。
こうしてパーティーへ恋人を誘うというテーマの曲は多くあります。
ただ、「タイ・ユア・マザー・ダウン」はいつまでもパーティーに行ける兆しがないパーティー・ソング。
ここまでご両親が頑固な人物でない限り「タイ・ユア・マザー・ダウン」という言葉は思い浮かびません。
クイーンのライブというパーティー会場で大合唱される紛うことなきパーティー・ソング。
ですが歌詞の中では「僕」も「君」もいつまで経ってもパーティーには行けません。
クイーンの魅力はハード・ロックにある
「ミュージック・ライフ」の三羽烏
Tie your Mother down
Tie your Mother down
Take your little brother swimmin'
With a brick (that's all right)
Tie your Mother down,
Tie your Mother down
Or you ain't no friend of mine
出典: タイ・ユア・マザー・ダウン/作詞: MAY BRIAN HAROLD 作曲: MAY BRIAN HAROLD
また物騒なサビになります。
歌詞を和訳して解説しましょう。
「君のママなんか縛ってしまえ
君のママなんか縛ってしまえ
君の弟はレンガを抱えて泳がせてやるよ
それでいいんだ
君のママなんか縛ってしまえ
君のママなんか縛ってしまえ
じゃなければ 僕の友だちではいられないよ」
和訳すると原詩が持つメロディーやハーモニーのニュアンスが損なわれるのが残念です。
それほど「タイ・ユア・マザー・ダウン」という言葉の響きがカッコいい。
「僕」は「君」の家族の固い絆が憎いあまりに弟にレンガを抱えて泳がせようとします。
こうなるとご両親が悪いのか「僕」が悪いのか分からなくなってしまうのです。
ただし、こうした因習じみた両親からの拘束への反抗というのはロック・ミュージックの永遠のテーマ。
「タイ・ユア・マザー・ダウン」はユーモアを感じるほど面白い歌詞です。
それでもこの曲はきちんとロック・ミュージックの王道に沿う歌詞になっています。
アメリカ大陸ではKISSがこうした歌詞を引っさげてシーンに登場してくる時期です。
日本ではクイーンもKISSもほぼ同時期に衝撃をもって迎えられました。
この時代にハード・ロックをリアルタイムで体感した人には一生涯忘れられない記憶になっているでしょう。
音楽雑誌「ミュージック・ライフ」ではクイーン、KISS、チープ・トリックが「三羽烏」といわれました。
どのバンドも初心者でも分かりやすいハード・ロックを得意としています。
ハード・ロックでありながらキャッチーでもある音楽に対して日本のリスナーは寛容でした。
クイーンの全盛期はいつ?
クイーンの全盛期はいつでしょうか?
売上げの面ではアルバム「ザ・ゲーム」が一番です。
しかしこの頃のクイーンはシンセサイザーを導入しだしました。
その一点をもって「あれはクイーンではない」とする旧いファンが多くいます。
セカンド・アルバムからアルバム「世界に捧ぐ」までを音楽的な全盛期と考える人たちです。
こうした人たちにとってアルバム「オペラ座の夜」と「華麗なるレース」は宝ものになります。
アルバム「華麗なるレース」のオープニングを飾る「タイ・ユア・マザー・ダウン」はキラーチューン。
そう考える人も多いです。
映画「ボヘミアン・ラプソディ」で初めてクイーンに触れた方たちにもこの時期の彼らをもっと知って欲しい。
それほどこの時期のクイーンは特別なバンドでした。