日本を離れた暮らしの中で、初めて歌謡曲も含めた日本文化の素晴らしさに気づけた。以来、日本的な情緒を歌詞やメロディーに加えるようになり、「そういう経験があったから、のちに『恋人よ』のような曲を作ることができたんだと思います」と五輪さんは振り返る。
出典: 週刊朝日 2017年5月26日号
周囲が騒ぎ立てるほどには、ご本人には歌謡曲への抵抗がなかった。むしろ自らすすんで歌謡曲を選択した、というのが事の真相のようですね。
31歳で亡くなったプロデューサーへ…
渡仏して歌謡曲に目覚めた五輪真弓。「恋人よ」はそんな彼女を支えたプロデューサーの死から生まれた曲です。
バンドマンとしても活躍したプロデューサー・木田高介(きだたかすけ)が、1980年の5月に不慮の事故で31年の生涯を閉じます。
突然の事故死に嘆き悲しむ木田の妻の姿に接し、五輪真弓が書き上げた楽曲。それが「恋人よ」なのです。
忘れたくても忘れられない人を歌う
万感の想いがつまった歌詞
さて、そう考えると歌詞の意味はあっさり読み解けそうな気もしますが、どっこいなかなか複雑なのです。一筋縄ではいきません。
コードもあわせてごらんください。
Em Am
枯葉散る夕暮れは
D G
来る日の寒さをものがたり
B7 Em
雨に壊れたベンチには
B7 Em Em7 CM7 Em
愛をささやく歌もない
Am Em
恋人よ そばにいて
B7 Em
こごえる私のそばにいてよ
E Am Em
そしてひとこと この別れ話が
B7 Em
冗談だよと 笑ってほしい
出典: 恋人よ/作詞:五輪真弓 作曲:五輪真弓
木田高介が亡くなったのは5月です。レコーディングは6月ですよ?
にもかかわらず「枯葉散る夕暮れ」とは面妖な。時期外れもいいところじゃないですか。
5月といえば若葉萌える新緑の季節。枯葉などというフレーズが到底浮かぶとは思えません。
若葉を枯葉に見せてしまう。それほどまでに木田の死はショックだったということでしょうか。
しかし結果的にはこの一節が冒頭にあることで、晩秋から冬にかけての大ヒットにつながるのです。
音楽って魔物だなあ…
砂利路を駆け足で
マラソン人が行き過ぎる
まるで忘却のぞむように
止まる私を 誘っている
恋人よ さようなら
季節はめぐってくるけど
あの日の二人 宵の流れ星
光っては消える 無情の夢よ
出典: 恋人よ/作詞:五輪真弓 作曲:五輪真弓
(2番のコードは1番と同じなので省略します)
「マラソン人(びと)」という言い回しが光ります。他では聴いたことがありません。
「マラソンランナー」では語呂が合わないのでしょうけれども、この一語は刺さります。
「マラソン人」は忘れなさい忘れなさいと「止まる私を」誘います。
でも忘れられないんだろうなあ…あきらめきれないんだろうなあ…1ヶ月やそこらじゃなあ…
「宵の流れ星」や「無情の夢」という表現からも、無念さがありありと伝わってきます。
カバーされまくってます
大物歌手が続々カバー!
哀切の念を歌い上げ、ロングセラーになった「恋人よ」は、数多くの歌手にカバーされています。
ザッと見つくろっただけでもこれだけあります。いずれ劣らぬ実力派ぞろい。
工藤静香(2002年)
出典: 昭和の階段 Vol.1/工藤静香
德永英明(2006年)
出典: VOCALIST 2/德永英明