80年代はアイドル黄金時代
先頭に立ったのは松田聖子
松田聖子が大手芸能プロダクションのサンミュージックからデビューしたのは1980年のことです。
彼女に続くように松本伊代や小泉今日子、中森明菜や斉藤由貴、薬師丸ひろ子や原田知世らがデビュー。
ヒット曲を連発したトライアングル
松本隆×呉田軽穂×松田聖子
「小麦色のマーメイド」の作詞は松本隆、作曲は呉田軽穂。
松本隆は伝説的なロックバンド「はっぴいえんど」のドラマーだった人です。
メンバーは後のY.M.O.で一世を風靡した細野晴臣や『A LONG VACATION』の大ヒットで有名な大滝詠一など。
解散後も日本のポップスやロックに大きな影響を与えた才能ある人たちが揃っていたバンドでした。
当時の松本隆の写真を見ると現在の温厚そうな表情と違って、非常に尖った印象です。
その彼が作詞家に転じてヒット曲を量産するのですから分からないものですね。
呉田軽穂(くれだかるほ)は松任谷由実のペンネームです。
荒井由実の時代に名曲や名盤を次々と生み出して音楽界に衝撃を与えました。
ご主人の松任谷正隆と結婚後はさらにパワーアップしてアルバムを出せば大ヒット、コンサートは常に満員。
溢れる才能はほかの歌手にも多くの名曲を提供することになります。
ペンネームを使ったのは、あえてユーミンのイメージを表に出さずに楽曲を制作したかったのかもしれませんね。
そんなふたりが強力タッグを組んで稀代のアイドル松田聖子に多くの名曲をプレゼントします。
「渚のバルコニー」「赤いスイートピー」「瞳はダイアモンド」、そして「小麦色のマーメイド」。
3つの才能が繋がったトライアングルがヒット曲を連発したのです。
真夏の恋はプールサイドで
絶好調時の心地よい名曲
涼しげなデッキ・チェアー
ひとくちのりんご酒
プールに飛び込むあなた
小指で投げキッス
出典: 小麦色のマーメイド/作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂
この曲が出た当時はシングルを出せばチャート1位が続き、すでに”聖子ちゃん”ブランドが浸透していました。
松本隆と松任谷由実による楽曲提供は「赤いスイートピー」「渚のバルコニー」に続く3作目ですね。
トライアングルの初期三部作といってよいかもしれません。
まさに絶好調時の作品ですが、ノリの良い前作に比べるとゆったりとした雰囲気が心地良い仕上がりです。
ギターの洒落たイントロに続いて始まる最初の一行の歌詞ですぐに真夏のプールサイドが目に浮かびます。
テーブルのドリンクは爽やかでフレッシュなりんご酒。
オレンジジュースやメロンソーダではなくて軽めのお酒が大人になったばかりの恋を連想させてくれます。
プールに飛び込む男性は男らしさの象徴で、うっとりと見つめる彼女の姿が目に浮かぶようです。
彼女の前で格好良くザブン!と決めて見せれば彼氏の鼻も高いでしょう。
揃えた指先で投げキッスをするのが普通だと思うのですが、そうではなくて小指なのが可愛らしいですね。
甘いひとときを楽しんでいる姿にはまだ少し子供っぽいところも見えています。
真夏に恋する女性はマーメイド?
WINK WINK WINK
常夏色の夢追いかけて
あなたをつかまえて泳ぐの
わたし裸足のマーメイド
小麦色なの
出典: 小麦色のマーメイド/作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂
そしてウインクを3回繰り返すところからプールサイドの光景が夏の世界へと広がっていく感じがします。
彼の周りを人魚のように自由に泳ぎ回って、夏も恋も自分のものにしたいのでしょうね。
真夏にプールサイドで恋する女性をマーメイドに例えたところが松本隆のセンスの良さだと思います。
日に灼けた小麦色の肌は夏の象徴で、彼女の心も微熱に浮かされたように熱くなっているのかもしれません。
アンデルセン童話の『人魚姫』は悲しいお話でした。
苦しい思いをしてまで人間の姿になったのに、王子との恋は叶わなかったのです。
人魚姫に比べるとプールサイドのマーメイドは自由に恋を楽しんでいるようですね。
青い海の中を自在に泳ぎ回る人魚のように、恋する彼女は生き生きとしているのです。
熱いプールサイドに触れる素足には彼とも繋がっている感触があるのではないでしょうか。
サビのメロディーでは気持ちよく伸びる松田聖子の高音の魅力が存分に生かされていますね。
松任谷由実も彼女の声がもっとも魅力的に響く音域が分かっていてこのメロディーを書いたのだろうと思います。