ハチの変わらない魅力
ボカロPとして活躍していたハチ
ボカロP、ハチの正体は米津玄師ということは、もうファンの皆さんご存知ですよね。
今のミュージックシーンで一番熱い男性アーティストともいえる米津玄師ですが、自身の名前でデビューする前、ハチとして活動していた頃も、ボカロ界では超話題になっていたんです。
活動の場がどこであれ、やっぱりその才能は輝いていたんですね。
米津玄師の曲のファンになってから、ハチとしての音楽を聴いてみた方も多いと思います。
いかがでしたか?
サウンドがすべて電子音という違いはありますが、音楽性としてはあまり変わっていないものを感じられるのではないでしょうか。
DTMだからこそできるハチャメチャな部分なども、とてもいい味を出していますよね。
そして何と言ってもたまらないのは、その世界観。
ちょっとダークであったり、不思議であったり。
曲調もそうですが、歌詞の謎めいた感じの虜になったという方もいるのではないでしょうか。
ボカロ曲はあまり聴かない、好きではないという方でも、ハチの曲は結構好き、という声もよく聞きます。
そんな独特の魅力を持ったハチの世界、今回は初期の名曲「clock lock works」を通してお伝えします。
1stアルバム『花束と水葬』収録「clock lock works」
「clock lock works」は2009年の11月にニコニコ動画に投稿された曲です。
使用ボーカロイドは初音ミク。ハチとして通算8作目の作品にあたります。
2010年に自主制作されたハチとしての記念すべき1stアルバム、『花束と水葬』に収録されました。
このアルバムは、ずっと入手困難だったのですが、2013年に全国流通盤として再販されました。
MVを手掛けたのは……?
この曲のMVは、後にハチのMVではおなじみになる映像制作集団、南方研究所を結成する前のタスク・うつしたの両名が手掛けた初のハチ作品になります。
この「clock lock works」のMVは、まるでアニメのようにスムーズな動きで、当時かなりの反響を呼びました。
「ワンダーランドと羊の歌」や「恋と熱病」、あの「砂の惑星 feat. 初音ミク」のMVもこの南方研究所の手によるものなんですよ。

キラキラしたサウンドが印象的
オルゴールのようなキラキラした音が印象的ですね。
全体を通してこの音が、おとぎ話のような不思議な感じと、壊れてしまいそうな繊細さを醸し出しています。
まるで時計が時を刻む音のようにも、聞こえてきます。
うつむいて歩く少女。
絵の中の馬車に乗り込んだり、線路に落ちていくようなシーンがあったりと、可愛いだけでなくある種のシュールさもはらんだMVとなっています。
「clock lock works』の歌詞
ではここからは、「clock lock works」の歌詞を見ていきましょう。
パッパラ働く休む事なく
ロ ド ロ ド ランランラ
繰り返しの毎日 気がつけば迷子の猫の様
どっかで誰かが入れ替わろうと
マ ノ マ ノ ランランラ
誰も気付かない ひたすらに数字を追っかけた
心の奥底には 鍵をかけた扉
「馬鹿げてる」 そう言い聞かせては ノックの音を無視した
「変わらない」と 諦めて
佇む時計の針に急かされる
夢ならば 喜んで
「星に願い事を」と 真面目な顔で
出典: clock lock works/作詞:ハチ 作曲:ハチ
毎日毎日、仕事や時間に追われる日々。
ぐるぐる同じところを回っているかのように、昨日と今日の区別もつかないような、代わり映えのない毎日を送ります。
きっと、自分の代わりに誰かが入れ替わっていても、気付きもしないでしょう。
そんな誰でもできることを繰り返すのに、疑問を感じたことはありませんか?
心のどこかで感じつつも、日々に追われて向き合えない、それが現実なのではないでしょうか。
心の奥に秘めた、もう忘れ果てたかもしれない夢や希望。
時にふと顔をのぞかせても、すぐに無かったことにしてしまいます。
夢や希望を思い出していたら、この毎日に耐えられないからです。
自分で動くことも忘れて、時間に流されて生きていく。
夢を叶えようともせずに、誰かがその夢を運んできてくれるのを待っているのです。
扉の向こうから聞こえる微かな声
チクタク働け馬鹿げた兵士
ガッタン ガッタン ランランラ
取捨選択 よーいどん 気がつけば真っ黒 屑の様
朝と夜とが入れ替わろうと
ノ マ ノ マ ランランラ
誰も気にしない 貪欲に数字を追っかけた
扉の向こうから 微かに漏れる声
「仕方ない」と 膝立てて
部屋の隅っこで小さく罵声を吐く
何処でもいい 連れ出して
王子様なんて 来るはずも無く
出典: clock lock works/作詞:ハチ 作曲:ハチ
まるで機械のように、昼も夜も感じないかのようにひたすら働き続けます。
取捨選択で選んだのは、代わり映えのしないこの毎日。
いつか、どこかで自分が選んでこの道を歩いてきたのです。
選ばれなかった夢は、心の奥底で時に声を挙げます。
それも聞こえないふりをし続けて今まで生きてきました。
諦めて、この毎日に誰にも気付かれないように悪態をつきながらも、時に思います。
こんな毎日はもううんざりだと。
誰でもいいから、ここから連れ出してほしいと。
あくまでも、他力本願です。
自分で選んだ道に嫌気がさし、うんざりだと思っても、自分から動き出しはしない。
誰かが何とかしてくれるのを待っている。
おとぎ話ではないのですから、当然、白馬の王子様は現れません。
あてのない期待を抱いては、また、裏切られたと感じるのでしょうか。