長い長い夜を超えて
風通る隙間埋めあって
忘れかけたユーモアが
街の景色に色を落とす
出典: ユーモア/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
引き続き、幅広い意味に解釈できる歌詞が展開されています。
わかりやすい言葉が並び、韻もまったくわざとらしくありません。
主人公が深夜、ダンスをするように物思いにふける様子も浮かびます。
あるいは夜通しゲームをしている光景なのかもしれません。
何かおもしろいことを思い出し、鮮やかに華やぐ気分になったのでしょう。
また、この曲を聴く方それぞれに、自分の夜ふかしを連想できるはず。
リスナー層を限定せず、間口の広い歌詞になっていることは大前提です。
そのうえで深読みを加えましょう。
徹夜の音楽制作という解釈がひとつ。
それから曲、あるいは曲の構成を夜にたとえている可能性も考えられます。
似たようなフレーズのミニマルな繰り返しなので、短くないということ。
音と音の間(=風)を埋めるようにサウンドを重ね、変化を加えています。
マス(大衆)を意識することで失いがちになる「音楽的なおもしろさ」。
音楽性の追求により、彩り豊かな音楽に仕上がるという話も見えてきます。
どこを目指しているの?
行き当たりばったり彷徨った
夢にまで見た桃源郷は何処
暗くなったら火を灯そう
孤独を分け合えるよ
出典: ユーモア/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
深読みを続けます。
メジャーデビュー1年で「紅白歌合戦」にも出場したKing Gnu。
ただし、それ以前にインディーズ時代もあり、数回の改名を経ています。
常田大希さんが1人でSrv.Vinci(サーバ・ヴィンチ)として始め、勢喜遊さんと2人時代もありました。
そもそも生ドラムのみ叩いていた勢喜遊さんがサンプラーを覚えたのは、常田大希さんの影響です。
すっかりハイブリッドドラムの使い手となりました。
そしてこの曲ではラップトップ(ノートパソコン)のプログラミングにも初挑戦しています。
井口理さんと常田大希さんは幼なじみで、高校だけが別、東京芸大で再会されました。
常田大希さん、勢喜遊さん、新井和輝さんはエレクトリック神社などのセッション仲間。
こうした4人の出会いと軌跡はまさに歌詞1行目が表していると考えられます。
たくさんの人に上質な音楽を聴いてもらいたいという願い。
叶うかどうかわからずに音楽制作を続けていると、暗い気分になることもあるのでしょう。
それでもクオリティの高い音楽性を追求し続ける仲間がいる。
そんな流れかもしれません。
同時に、RPGの世界を巡る様子を重ね合わせることもできます。
2番の歌詞はこちら!
鬱蒼とした心情
のらりくらりと踊るんだ
なんだかんだで憂鬱が
影を落とした午前二時
どうしようもないこの世界を
悪あがき、綱渡り
その心、裏腹に胸騒ぎ
出典: ユーモア/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
1番のうちに1時間が過ぎました。
丑三つ時(うしみつどき)に差し掛かり、この時間まで起きているだけで何となく暗い気分になった。
そんな心情も想像できるでしょう。
あるいは幅広く届けるための音楽と、純粋に音楽性を追求した音楽。
その両立にもがき苦しんでいる。
そう解釈することもできます。
得体の知れない欲望とは?
呼吸を拒めなくたって
その両足で立って叫んで
得体の知れない欲望が
小さな体を蝕んだ
出典: ユーモア/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
わかりやすい言葉が並ぶ歌詞ですが、ここにきて少々変化が見られます。
まず、歌詞1行目。
「息を吸ったり吐いたりすることを拒否できなくても」と意訳できます。
それでも意味というか、心情がわかりづらいのではないでしょうか。
そこで参照したい曲があります。
Srv.Vinci(サーバ・ヴィンチ)時代のアルバム「トーキョー・カオティック」(2016年9月発売)。
このアルバムに収録されているのがSrv.Vinciバージョンの「Vinyl」です。
その歌詞の一部がこちら。
暇つぶしには飽きたのよ
纏ったビニールを脱がせたいの
燃えぬよ氷は
砕いて溶かしてゆけ
“呼吸拒む身体”
出典: Vinyl/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
暇つぶしには飽きたのよ
纏ったビニールを脱がせたいの
お前の思惑から
無邪気に抜け出して
“さよなら、愛を込めて”
出典: Vinyl/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
こうして比較してみると、Srv.Vinci時代の「Vinyl」の歌詞にヒントがあることがわかります。
まず、息が詰まるような気分、息苦しさをビニールで表現していると解釈しましょう。
そうするとビニールを被ったような閉塞感の中では、体が息をすることを拒否してしまう。
そんなイメージです。
「ユーモア」の主人公は深夜、大変な世界で暗い気分になりつつ、何やら格闘しています。
全身で拒否したくなるようなことがあっても、どうにか踏ん張って叫ぼうとしているのではないでしょうか。
例えばKing Gnu「Vinyl」のMVで、井口理さんが叫んでいるように。
ちなみに、このMVはウォン・カーウァイ監督の映画「恋する惑星」などへのオマージュになっています。
常田大希さん率いるクリエイティブ集団PERIMETRON(ペリメトロン)制作の力作MVです。
ただ、「ユーモア」はシャウトするような曲ではありません。
それでも幅広く伝わりやすい、歌ものらしいメロディ以外も盛り込みたい。
音楽制作の過程で、そんな願望が生まれたのかもしれません。
「得体の知れない欲望」とは、音楽性を追求した様々な歌い方のボーカル。
そんな深読みが可能です。
しかし、井口理さんは身長180cmと大柄なので、小柄を意味する歌詞は比喩的な表現と考えられます。
続きの歌詞も併せて考えましょう。