本当は白鳥?
背伸びしたってアヒルはアヒルか
空の蒼さを眺めているんだ
こんな夜は聞き慣れた
歌でも聞きたいな
出典: ユーモア/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
鬱蒼とした心情吐露の続きです。
1番ではユートピアを探していた主人公ですが、2番ではディストピアに浸っています。
生きたくない!と拒否することができなくても、立ち上がって叫ぼう!
そんな正体不明の願望が、ちっぽけな体を支配したという展開でした。
ここでアンデルセンの童話を参照。
■みにくいアヒルの子
アヒルの群の中で、他アヒルと異なった姿のひなが生まれた。(中略)生きることに疲れ切ったひな鳥は、殺してもらおうと白鳥の住む水地に行く。しかし、いつの間にか大人になっていたひな鳥はそこで初めて、自分はアヒルではなく美しい白鳥であったことに気付く。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/みにくいアヒルの子
生きることに疲れ切るところまで暗い気分になっていたことがわかります。
だから耳なじみのある歌を聴きたい。
結局、そういう流れです。
どん底まで落ち込んだ状態が長く続くと大変ですが、そういうときもあったと思い当たる方もいるでしょう。
これが「それぞれの経験を重ねて共感する」という解釈の仕方です。
このように汎用性のある歌詞だとわかったうえで深読みもしてみましょう。
King Gnuのメンバー4人のうち井口理さんだけ、ブラックミュージックがルーツではありません。
常田大希さんはヒップホップやオルタナティブロック、勢喜遊さんはファンク、新井和輝さんはジャズ。
それらを中心にブラックミュージック全般、さらにコアな洋楽、音楽全般に影響を受けています。
■ハッチポッチステーション
ザ・ビールとす(ジョン・ノレン、ポール・マカロニ、ショージ・ハリマスン、リンゴ・オイワケ)(うみ~おつかいありさん~森のくまさん:プリーズ・プリーズ・ミー~デイ・トリッパー~抱きしめたい)
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/ハッチポッチステーション
井口理さんの音楽的ルーツは、子ども番組「ハッチポッチステーション」のグッチ裕三さん。
「ザ・ビールとす」経由で本家の「ザ・ビートルズ」を聴くようになったそうです。
そんなわけで井口理さんが得意なのはJ-POPらしい歌もの。
それでも「Vinyl」ではシンコペーションだらけのファンキーな歌い方に挑戦しています。
「ユーモア」では歌詞のみラップ調。
しかしメロディがあるので、歌い方としてはラップではありません。
息継ぎができなくても「ラップに挑戦!むしろシャウトしたい!」という願望が沸き起こった。
しかし井口理さんのルーツがヒップホップではないことは変わりません。
やっぱり歌もの楽曲が聴きたい。
何しろ本当は美しい白鳥だから。
そんな深読みもできる歌詞を、井口理さんが歌っているという構図です。
井口理さんの1学年先輩、常田大希さんだから書ける歌詞かもしれません。
あるいは常田大希さんの心情と解釈すると、本当はラップが聴きたいという話かもしれません。
3番の歌詞はこちら!
それでも大丈夫!
きらりこの世を踊るんだ
なんだかんだで上手く行く
気がしている午前三時
出典: ユーモア/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
丑三つ時が過ぎると、先ほどまでの暗い気分はさっと消え去りました。
ロック、ファンク、ヒップホップ…。
結局のところ、井口理さんはあらゆるテイストの歌い方をオリジナルに昇華されています。
さらにこの曲自体、J-POPとブラックミュージック、生音と打ち込みの融合など。
耳なじみのいい歌ものでありながら、サウンド的にもおもしろい仕かけが満載の曲に仕上がっています。
これほどクオリティの高い音楽を制作するのは非常に大変なことでしょう。
それでも曲名どおり楽しみを見つけ、大丈夫と確信しています。
ちょっとしたお楽しみ
始まりと終わりはつむじ風
いつだって唐突に揺さぶられ
耐え忍ぶ時は永遠に感じられ
まあそれも今じゃ御一興
出典: ユーモア/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
歌詞1行目に「ロマサガRS」の技名が登場しています。
■つむじ風
塵旋風(じんせんぷう)とは、地表付近の大気が渦巻状に立ち上る突風の一種である。一般的には旋風(せんぷう、つむじかぜ)や辻風(つじかぜ)と呼ばれ、英語ではダストデビル(Dust devil)と呼ばれる。竜巻と誤認されることがあるが、塵旋風と竜巻は根本的に異なる気象現象である。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/塵旋風
1番Bメロで「曲の構成を夜になぞらえている」と解釈しました。
その際「音と音の間」を表現していたのが「風」。
3番では、曲の最初と最後が渦巻(うずまき)、つまりスパイラル状になっていて、揺らぎがある。
そんなサウンド面の解説にもなっているのではないでしょうか。
実際、3番の後は「時刻まじりのAメロ」が1番から3番まで繰り返され、1番Bメロで締めくくる流れです。
この曲そのものがミニマルなフレーズの繰り返し(ループ)の果てに、渦巻(スパイラル)になっていました。
丑三つ時には「得体の知れない欲望」に駆られ「鬱蒼とした心情」を吐露。
そんな時間も過ぎれば「ちょっとしたお楽しみ」だったと高らかに歌い上げるのが3番Bメロの最後です。
曲名を日本語に訳すと「御一興」!
「ごいっきょう」と読みます。
あくまでも音楽的な人間で、文学的ではないと自称する常田大希さん。
いやいや、これほど文学的な歌詞がありましょうか。
しかも美しい白鳥、井口理さんのハイトーンボイスでこの歌詞!
音楽的にも文学的にも、非常におもしろい名曲でした。