【戸惑いテレパシー】が描く世界

バーチャルシンガーの花譜さん。2020年6月に【戸惑いテレパシー】を発表しました。

楽曲もこれまで通り、KAMITSUBAKI STUDIO所属のカンザキイオリさんが作詞作曲をしています。

歌詞では、リアルではなくバーチャル世界で繋がる人々の様子が描かれました。

テクノロジーが発展した時代だからこその繋がり方にはメリットもありますが、そこにはもちろんデメリットも。

今回はそんなバーチャルコミュニケーションにおいて、主人公が記号に乗せた想いを解き明かします。

また、そうして繋がりたい相手との関係にも迫っていきましょう。

バーチャルコミュニケーション

記号=絵文字

絵文字ばかりで頷きあおうよ
上昇中の記号が今も鼓動を止めるの
単純だとか言うのなら
今すぐわかりやすく教えてよ
今何してんの?
今何わかってるの?
わかってるなら全部言ってよ私のこと

出典: 戸惑いテレパシー/作詞:カンザキイオリ 作曲:カンザキイオリ

現代の人々に馴染みのあるキャリアメールは、1999年に初めて登場しました。

そんなメールの特徴といえば、様々な種類がある絵文字

文字だけの淡白なテキストメールに感情を乗せられる記号です。

この便利な記号は、SNSでのコミュニケーションが活発になってきた2000年代以降も多くの人に重宝されています。

この楽曲の主人公も、そんな絵文字に自身の気持ちを乗せて相手に伝えようとしていますね。

しかしどうやら相手には伝わっていない様子です。

どうしてこんなにも単純なものが伝わらないのか…冒頭から憤っている様子が伝わってきます。

記号がないと伝わらない気持ち

見えない表情を誤魔化すのなら
人間じゃないって曝け出しちゃうよ
吹っ飛んでいけ
吹っ飛ばしていけ
駆け抜けていけ
君の元まで
嗚呼

出典: 戸惑いテレパシー/作詞:カンザキイオリ 作曲:カンザキイオリ

やり取りが続いてもなお、絵文字を使わない相手。

直接会っていないのをいいことに、自身の本心を隠そうとしています。

照れ隠しなのか、感情表現が苦手なのか、嫌々やり取りをしているのか…。

理由さえもわからないのは、相手との関係がバーチャル世界で構築されているからでしょう。

主人公はそんな相手に対して不満をため込んでいるようです。

ふざけ半分で、「君が実はロボットであると暴露してやる!」などと発言してしまうほど。

そんなロボットのように感情が見えない君に対して、主人公は遠慮なく自分自身の気持ちをぶつけます。

自分と相手の間にあるもの全てを跳ね除けるほど強く鋭いそれは、一体どのような気持ちなのでしょうか。

歌詞の口調から主人公が女性だと仮定しましょう。

女性がこれほどまでに激しく相手を責め立ててしまうほどの感情。

それはきっと相手への恋心ではないでしょうか。

君のことを好きだというその強い気持ちを、一直線に飛ばしているのです。

同じように記号で伝えてほしい

その目かっぽじって気づいたら
心の内を荒んで探ってみてよ
飛ばしてみてよ
その電波思考で届いてみてよ
できるなら記号ばかりでも
歌ってみてよ
笑ってみせてよ

出典: 戸惑いテレパシー/作詞:カンザキイオリ 作曲:カンザキイオリ

君はまだ、主人公が抱いている恋心に気がついていませんでした。

冒頭の歌詞を見る限り、主人公は駆け引きなどせずストレートにぶつかっていくタイプに見えますね。

となれば、気持ちのすれ違いを引き起こしているのが君の鈍感さだとわかるわけです。

そんな君の鈍感さもきちんと理解している主人公は、これまで以上にわかりやすいアピールを始めます。

どんなにストレートな性格だとしても自身の好意を伝えるのは緊張するもの。

ドキドキしながら、それでも思い切り気持ちを伝えるには大きなエネルギーが必要なのです。

そこまでエネルギーを消費したのなら、やはりそれ相応の見返りを求めるでしょう。

今回は主人公も遠慮しません。大胆に返事を催促しています。

普段絵文字を使わず淡白モノクロの連絡しかくれない君に、カラフルな記号で彩った抑揚のある連絡を求めたのです。

落ちてゆく気持ち

愛を哀を逢を藍に今は染まっていく
焦がしていく
その記号で今願ってよ
何もかも全部届いてよ

出典: 戸惑いテレパシー/作詞:カンザキイオリ 作曲:カンザキイオリ

全てを込めてぶつけた主人公の本当の想い。

これまで伝えていた感情より真剣で、深く重いものだったに違いありません。

しかし主人公はいまだに、その気持ちが伝わっていないと思っています。

それは4行目に綴られた切実な願いからもわかりますし、1行目にある4つの「アイ」からもわかります。

1つ目のアイは、主人公が君に対して抱く恋心

2つ目のアイは、君を想えば想うほどに込み上げる切なさ

3つ目のアイは、バーチャルではなくリアルでのコミュニケーションを望む心

それら3つのアイが、4つ目にあるアイに変化していきます。

深い青色を表す「」は、主人公の心がネガティブな方向に傾いていることを示しているのです。

こんなに必死に伝えているのに、どうしてわかってくれないのだろう。

ずっとずっと待っているのに、どうして応えてくれないのだろう。

ポジティブで勢いがあるように見えた主人公の心に落ちる、暗い影の部分が描かれていました。