「WORLD'S END UMBRELLA」

今回は、ボカロPとして数々の伝説を作り上げたハチの初期の曲「WORLD'S END UMBRELLA」についてご紹介します。

ハチは、2009年頃から初音ミクやGUMIを使用したボーカロイド曲をニコニコ動画などに投稿し始め、その斬新な曲調は評判となり、ミリオン再生を量産するようになります。

それ以前にも、同じハチ名義でボーカロイドを使用せず、自身の声で歌ったオリジナル曲を投稿していたそうですが、嫌気がさし削除してしまったとのこと。

何でも、自分のルーツとなる音楽などが曲に出過ぎていたこと、客観的に聴いてみると納得がいかなくなったからという理由だそうですが、削除した曲数は約30曲。

今となっては、凄くもったいないような気がしますよね。

でもきっと、その曲たちは何らかの形で他の曲の一部として取り入れられたり、全く違う姿となって蘇ったりしているのかもしれませんね。

実際にそういう例があるようです。

ハチとしての1stシングルで、2ndアルバムOFFICIAL ORANGE』に収録されている「ワンダーランドと羊の歌」という曲があります。

この曲は、削除された「アルデバラン」と「トロイメライ」という曲を組み合わせた曲だといいます。

削除される前の曲を聴いたことがある方の中にはそのことに気付く方もいるようで、ハチ自身、削除しても誰かの中に生きていることを嬉しく感じていたようです。

形として残っていなくても、人の心の中には残る、それって素敵なことですよね。

その曲の何かが、その人の心に響いたということなのですから。

きっとその人の中には、永遠に息づいていくのでしょう。

1stアルバム『花束と水葬』収録

「WORLD'S END UMBRELLA」は、2010年2月にニコニコ動画に投稿されました。

ハチの1stアルバム『花束と水葬』に収録されています。

このアルバムの最初のリリースは自主製作で行われたため、長い間入手困難となっていましたが、2013年に全国流通盤として復刻リリースされました。

ファンの方には待ちに待った再リリースでしたね。現在では、ネットやCDショップでも手に入れることができます。

「WORLD'S END UMBRELLA」の約8か月前に投稿された「THE WORLD'S END UMBRELLA」

ハチは、「WORLD END UMBRELLA」の元となる曲「THE WORLD END UMBRELLA」を、2009年の6月にニコニコ動画に投稿しています。

この時のPVはハチ自身が手掛けたもので、モノクロの絵と独特の文字がダークな雰囲気を漂わせるのもとなっています。

マウスでの手書きPVだといいますが、その完成度の高さにはびっくり。特にデザイン文字がすごいと思いませんか?

ひとまず、ご覧ください。

リテイクされてできた「WORLD'S END UMBRELLA」

この曲をもとに、リテイクされたのが「WORLD'S END UMBRELLA」です。

曲の印象も、少し変化していますね。

「THE WORLD'S END UMBRELLA」よりもドラムの音が前に出ている感じです。

そしてオルゴールのような、クリスタルのような音がちりばめられています。

とても生き生きしたサウンドになっているように感じます。

こちらのPVは「clock lock works」のPVを手掛けたタスク・うつしんにより結成された映像制作集団、南方研究所の手によるもの。

歌詞の世界のよく表したものとなっています。

最後の時計が時を刻む音が、余韻を感じさせますね。

「WORLD'S END UMBRELLA」の歌詞

では、ここからは「WORLD'S END UMBRELLA」の歌詞を見ていきましょう。

傘が支配する街

あの傘が騙した日 空が泣いていた
街は盲目で 疑わない
君はその傘に 向けて唾を吐き
雨に沈んでく サイレンと

誰の声も聞かずに
彼は雨を掴み
私の手をとりあの傘へ
走るの

二人きりの約束をした
「絵本の中に見つけた空を見に行こう」
刹那雨さえも引き裂いて
もう悲しむ事も忘れたまま

出典: WORLD'S END UMBRELLA/作詞:ハチ 作曲:ハチ

大きな大きな傘が守る街。

その傘は世界を覆うほどで、この世界に住む人たちは、傘の外というものを知りません。

もちろん、太陽も見たことがありません。

きっと今の私たちより遥か未来の世界で、一度現在の文明は滅び、新しい文明の中で暮らす人たちなのではないでしょうか。

オゾン層は破壊しつくされ、有害な宇宙線や、強烈な紫外線が振り注ぐようになり、人類はそのままでは暮らしていけなくなったのでしょう。

傘はきっとシェルターのような存在。

そこに暮らす人々は、太陽を実際に見ることがないまま暮らしています。

存在自体は知っていても、何の興味も持たず、絵本や小説の中に存在するようなものと化してしまっています。

そうして、どのくらいの時が経ったのでしょうか。

絵本の中にある青い空と太陽に、惹かれる少年と少女が現れました。

傘の世界に疑問を抱き始めます。

そしてある時ついに決意します。

傘の上に何があるのか、絵本の中にある太陽や空は本当にあるのか、確かめることを。

崩れ出し何処へ行く螺旋階段は
煤けて響いた滴り雨
泣きそうな私を そっと慰める様に
君は優しく 私の手を

白い影に追われて
逃げた先に檻の群
理由を探す暇も無く
気も無く

震えた手を 君が支えて
私はそんな背中を ただ見守るの
闇に溶けた 歯車は笑う
ホラ微かに風が頬を撫でる

出典: WORLD'S END UMBRELLA/作詞:ハチ 作曲:ハチ

長い間誰も入っていない傘の塔の中には、螺旋階段がありました。

ということは、誰か真実を知る者がいる、もしくは過去にはいたのでしょう。

しかし、崩れそうになってる様子を見ると、ほぼ使われていない、禁断の階段だということがわかります。

それでも、空を知りたくて上っていく二人。

白い影は、塔を守る番人でしょうか。

それとも、少年と少女の恐怖や、それまでの概念を覆されることになるかもしれない不安かもしれません。

それでも、それを振り切って、ついに閉ざされた扉にたどり着きます。

感じたことのない乾いた風が、扉の隙間から頬を撫でます。