冒頭の表情とは、まさしく父親のものでしょう。
ですが彼は誰の為に、病院へと通っているのでしょうか。
推測できるのは、この歌にはまだ姿を見せていない母親の存在。
すなわち、Qの母親でもある人のことなのではないかと思います。
年季の入った部屋の壁に残る暴力の跡も、きっと彼の父親のものでしょう。
壁を殴らなければ収めようがないくらいの衝動に、父親が駆られることがあったことが読み取れますね。
この父親の凶暴な衝動は、一度きりで収まったのでしょうか。
疲れた表情を子どもの前でも隠さないような父親の衝動が、一度で済むはずはないのではないかと思います。
先ほどのフレーズでも、Qは父親の暴力を止めようとしていました。
彼は本来優しい人であるはずの父親に、拳を振るわないで欲しいのです。
Qはきっと、暴力以外の方法で父親の衝動を抑えようとしたのでしょう。
それがきっと、ベッドの上で毎夜父に彼が行われている「出来ること」。
まだ年端のいかぬ彼は、「これくらい」しか自分に出来ることはないのだと語っています。
声を殺しながら父親の仕打ちに耐えるQ。
ですが彼は、酷い仕打ちを受けながらもそんな父を赦す姿勢を見せているのです。
その一言には、Qの優しすぎるほどの包容力や人を赦す心が反映されているのではないでしょうか。
Qの哀しい変化に気づく
泣かないで 父さん
逝かないで 母さん
世界は 世界はどうでもいいから
今夜は 今夜はしようよ
出典: Q/作詞:薔薇園アヴ 作曲:薔薇園アヴ
Qの前で涙を見せる父親。
Qの前で逝こうと、命が尽きようとする母親。
彼の母親は、父親の看病も虚しく息を引き取ったのでしょう。
その光景を見たQは、何を思ったのでしょうか。
当初は大変な状況にある世界を引き合いに出し、自分の家だけでも平和に、と願ったQ。
しかし今の彼は、「世界はどうでもいい」と表現しているです。
賢い彼は、自分の存在する世界では、どこか遠くで争いが起こっていることを知っていました。
しかし実際、彼にとっては父親と母親と自分だけが己の世界の全てです。
大きな世界と自分の周りの世界を比べることの無意味さに、気づいたのかもしれません。
それは遠い世界への、自分がいる世界の外の世界への興味関心を、彼が失った瞬間でした。
彼は今夜何を「しようよ」と、誰に催促しているのでしょうか。
母親の遺していったもの
母さん譲りの泣き顔が
鏡の中で佇んでる
出典: Q/作詞:薔薇園アヴ 作曲:薔薇園アヴ
母親のいない世界に2人取り残された、父親とQ。
彼らはこれからこの小さな世界で、どのような生を送るのでしょうか。
父親の激しく荒れ狂う衝動を、Qはこれからも小さな身体で受け止め続けるのでしょう。
そして行為の後には、彼はきっと鏡の中を覗き込み自らの傷を受けた顔をまじまじと眺めるのです。
母親は、哀しくも美しい残酷な忘れ形見をこの世に残していきました。
彼女自身が生み出した、Qという少年の中に。
最後に
いかがでしたか?
ボーカルのアヴちゃんの中に眠る「少年性」を描いたというこの曲。
楽曲に描かれた光景は、もしかしたら彼女がいつかどこかで見た記憶の1つなのかもしれません。
あるいは、彼女の中に息づいていた1人の少年のおとぎ話なのかもしれません。
物語の真実はアヴちゃんとQのみぞ知る、といったところでしょうか。
ぜひ皆さんも、彼の物語についてそれぞれに思いを馳せて頂ければと思います。
OTOKAKEの関連記事も併せてチェック!
本サイトOTOKAKEには、まだまだ皆さんに読んで頂きたい素敵な記事がたくさん。
最後に、本記事と一緒にぜひ読んで頂きたい解説記事を少しだけピックアップ致しました。
今回ご紹介した女王蜂は、闇や暗さを孕んだ世界観を表現することで非常に高い評価を得ているバンドです。
彼女たちのように、ダークな世界観の表現に長けたアーティストを併せて2組ご紹介しましょう。
amazarachi【性善説】
まず最初にご紹介するのはamazarashiの【性善説】。
amazarashiはその姿をメディアに見せることもほとんどない、神秘性に包まれたバンドです。
匿名性の高いアーティスト性の一方、非常に人間らしい生身感を持つ歌詞が支持されている彼ら。
【性善説/amazarashi】混沌とした世の中に善悪を問いかける一作!歌詞の意味を徹底解釈! - 音楽メディアOTOKAKE(オトカケ)
衝撃的なMVと歌詞を解釈。花が持つ意味とは?