「不思議」とは何のこと
2007年10月10日発表、スピッツの通算12作目のアルバム「さざなみCD」。
全編にスピッツらしさが滲むこのアルバムの中でもエバーグリーンなサウンドが魅力的な「不思議」。
この曲の歌詞の秘密を紐解いてみましょう。
草野正宗の歌詞の中では素直な解釈でも大丈夫な作品になっています。
それでも独特のひねくれた視線は健在です。
草野正宗はこの曲の主人公を引きこもりがちだった青年として描きます。
この青年が恋の不思議さに魅了されてどんどん殻を打ち破ってゆく姿を描写しました。
一種の成長譚として読める歌詞になっています。
草野正宗が描く恋愛はそれこそ色々な形があるでしょう。
「不思議」では男女ともに素直に歓べるような恋という設定にしています。
リスナーはこうした率直でキラキラした恋愛を羨ましく思えるはずです。
発表から十数年を経ていますがそのエバーグリーンな魅力はいまでも私たちを虜にします。
それでは実際の歌詞をご覧いただきましょう。
順調な恋に躍る
視線が語るものは何だろう
目と目で通じあえる 食べたい物とか
今好きな色は 緑色 雨上がり
出典: 不思議/作詞:草野正宗 作曲:草野正宗
歌い出しの歌詞になります。
語り手の一人称は僕で愛する君がそのパートナーです。
誰しも恋をしたときに両想いになれると心が浮き立つでしょう。
僕もかなり浮いた心模様を打ち明けてくれます。
視線が交わるだけでお互いの気持を分かりあえるという描写に頷ける人は多いはずです。
もちろん実際に言葉を交わすコミュニケーションは大事でしょう。
肌で実感できる愛というものもあります。
しかし目ほど多くのものを語れるものはないともよくいうものです。
視線を交わすことで分かりあえるというのは恋を秘匿したい場合にも有効でしょう。
ふたりだけの世界だけを視線での会話で成り立たせられることは素晴らしいことです。
僕と君との日頃からの信頼関係というものがこの恋の描写に顕れます。
雨が降り終えた後の緑というものは沸き立つ香りの中で実感できるものです。
また雨に洗われた後の緑の色は鮮明で際立っています。
好きなものがこうして一致するのは奇跡です。
もちろんフィクションが前提ですので、視線の会話でここまで通じるというのはオーバーな表現でしょう。
それでも僕の心が恋に浮き立つ思いには誰しもが共感できます。
僕による君の理想化の果てに
絵になるスマイルが 僕に降りそそぐ
痛みを忘れた そよ風に だまされて
出典: 不思議/作詞:草野正宗 作曲:草野正宗
誰しも恋した相手を理想化する傾向があります。
僕もここで君の笑顔がどれほど素晴らしいものかを表現するのです。
完璧な笑顔であることを絵画のようだと喩えます。
恋をしたての頃というのは特にこうした理想化の傾向は強いものです。
僕と君の出会いはまだ浅いということを裏付けるようでもあります。
とはいえこうした恋の歓びというものを茶化す気にはなれません。
僕は視覚で受けとった情報を全身で感じられるほどに気分が浮き立っています。
理想の相手と出会えたことの嬉しさは何にも代えがたいものでしょう。
僕は苦痛さえも忘却の彼方に運んでくれる恋というものにすべての神経を傾けます。
すべてこうした理想的な恋というものの中で幸福な気持ちを抱えて生きているのです。
嘘のような恋の歓びというものを感じながら、吹いてくる風を心地よいと思える。
いかに僕がいま幸せの絶頂にいるのかが伝わってきます。
「不思議」という楽曲はどこまでもこうした幸せのトーンが続いてゆくのです。
こじれてしまった恋を描くこともある草野正宗。
しかしこの曲では恋というもののストレートな魅力を描いてくれました。
タイトルを回収して
初めての恋に驚きながら
何なんだ? 恋のフシギ 生きた証
シャレたとこはまるで無いけれど
出典: 不思議/作詞:草野正宗 作曲:草野正宗
ここで早くもタイトルの「不思議」というワードを回収します。
何の「不思議」だったかといえば恋というものにまつわることでした。
実際に恋というもので幸せを感じられることは人生をバラ色に変えます。
特に僕の思いは君にしっかりと受け止められました。
つまり両想いの恋にまで発展できたのです。
僕にとってこの恋が何度目のものかは明示されません。
しかし生きていることの実感をこの恋から得られるという僕の思いはうぶなものでしょう。
過去にはあまり恋愛経験を積んでこなかったからこそ、この恋で弾ける気持ちをスパークさせます。
いい恋愛したいなと羨ましくなるような状況が歌われるのです。
恋というものはこれほどにも歓びに満ちたものなのだとその「不思議」さに僕は目を啓きます。
僕は特別に狙ったりカッコつけたりということをしている訳ではありません。
ありきたりな恋愛のひとつだとさえいえる平凡なものなのでしょう。
それなのに自分にとってはかけがけのないものであるという事実に驚かされるのです。
僕にとって両想いの恋愛というものは初めてなのかもしれません。
ある意味で初恋ともいえそうな恋愛でその素晴らしさを大事に思う僕でした。
僕にははぐれものの過去がある
君で飛べる 君を飛ばす
はぐれ鳥追いかけていく
出典: 不思議/作詞:草野正宗 作曲:草野正宗