珍しくも貴重なバンド
ヴィジュアル系ブームが終わっても
一時期大ブームとなった、いわゆる「ヴィジュアル系」と呼ばれるバンド。
今の若者からすれば、あまり興味が持てなかったり、時代遅れにも見えるかも知れません。
一番有名なのは、言うまでもなく「X」(現・X JAPAN)ですが、その当時には他にも多くのヴィジュアル系バンドが誕生し、新しい音楽を築いていきました。
あの頃は間違いなく、派手なメイクのロックバンドが、かつてないサウンドで暴れまくっていた時期だったと言えるでしょう。
しかし時は流れ、多くのバンドはかつて「ヴィジュアル系」と呼ばれていた源となっていた、印象的で奇抜で派手なメイクをやめてしまいます。
逆立てていたり、変わった色に染めていた髪も、おとなしくなりました。
さらに、メンバーが脱退(交代)したり、ソロに転身したり、解散や無期限活動休止などに流れていったり……。
そんな中で、1987年のメジャーデビュー以降、メンバーチェンジが一度も行われていないのが、このBUCK-TICKなのです。
ご存知の方もいるように、1989年にギターの今井寿が薬物所持で逮捕された時には、「謹慎」という形で、約半年間の活動休止はしています。
しかし今となって振り返ると、これはむしろ「よくここで辞めなかった」と言うべきではないでしょうか。
30年ものバンド活動
そして2017年後半から、「デビュー30周年プロジェクト」が始まり、先日37枚目にあたるシングル曲となる「Moon さよならを教えて」が発売されました。
3月にはアルバムの発売も控えていますし、ホールツアーも開始します。
多くのシングル曲だけでなく、アルバムも既に20枚リリースされているBUCK-TICK。
音源はもちろん、映像も多く出されています。
他のアーティストのトリビュートアルバムに参加したこともありますし、さまざまな場面で精力的に音楽活動をしている姿勢が伺えます。
アニメとのタイアップ
意外と少ないタイアップ作品
長いバンド活動ではありますが、意外にもそんなに多くのタイアップ楽曲を持っていないBUCK-TICK。
もちろん、まったくないわけではなく、かつてはCMなどに使用されたこともありますが、そう言われてみるとなかなか聴く機会がないようにも思います。
音源を多くリリースしつつも、アルバム発売後には必ずライヴを行う彼ら。
そこには、まずアルバムを聴いてもらって、楽曲を知って覚えてもらい、一緒にライヴで盛り上がりたいという気持ちが見えるようです。
やはりライヴ活動を多く行っていることもあり、固定ファンのハートはガッチリ掴んでいる模様。
ただ、あまり新規ファンを開拓できないのは残念に思います。
そこでようやく迎えた意外なタイアップ先が、アニメの主題歌というものでした。
2010年に30枚目のシングル曲として発売された「くちびる」は、アニメ『屍鬼(しき)』の前期主題歌となり、また後期ED曲として書き下ろされた「月下麗人」もアルバムに収録されています。
ではここで、『屍鬼』のOP映像とともに「くちびる」をどうぞ。
3形態の『屍鬼』とは
アニメの原作小説は、1998年に分厚い上下巻の単行本として出版された、有名なホラー作家である小野不由美氏の『屍鬼』で、2002年に文庫化されたものは全5巻となる大ボリューム作品です。
それが2008年より、『封神演義』や『銀河英雄伝説』のコミカライズで人気の、藤崎竜氏によって約3年半に渡って漫画として連載されました。
この時、小野不由美氏から「ただ原作をなぞるだけにはしないでほしい」という条件を提示されたため、藤崎竜氏は『封神演義』と同様に独自の解釈で娯楽性を加えています。
あまりに自由な設定やキャラクター性を持ち、物語の流れなどを追加したり、原作の場面をカットしたり変更しているため、原作小説とはやや趣きが違うと思います。
そしてさらに、アニメでの『屍鬼』でも手を加えて変えられた部分などもあり、小説・漫画・アニメの『屍鬼』はそれぞれ独立しているようにも見えるでしょう。
アニメ版は一応漫画版に忠実に描かれてはいますが、終盤はアニメの方が漫画の連載を追い越してしまったため、後半部分は原作小説に比較的忠実な展開になりました。
こう見ると、『屍鬼』はなかなか興味深い作品ですね。
楽曲作りにも変化が
アニメ主題歌作りのために
一応漫画版をベースにアニメを作るということだったので、BUCK-TICKのメンバーは事前に漫画版の『屍鬼』を読み、世界観を踏襲して楽曲の制作に臨んだそうです。
タイアップの作品内容を踏まえた上での作詞は、担当するヴォーカルの櫻井敦司にとっては初めての試みだったため、「明けない夜」をイメージしたのだとか。
アニメの製作側からは、「曲調はアップテンポなもの」という指定があり、作曲担当の今井寿にとっても楽な作業ではなかったでしょう。
しかし、かえってその縛りがあったからこそ、これまでの彼らのイメージを壊さないまでも、新しいものを生み出したような、素晴らしい楽曲になったはずです。
短くも胸を刺す歌詞
それでは、歌詞を見ていきましょう。