「エイトビート」でいこう
2008年5月21日発表、ザ・クロマニヨンズの通算4作目のシングル「エイトビート」。
リスナーがザ・クロマニヨンズに望んでいる思いのちょうど真ん中を突いてくれる名曲です。
歌詞の内容量はとても少なくシンプルなものになっています。
しかしこの「エイトビート」に込められた思いというものは果てしのないものがあるのです。
ロック・ミュージックってこういうものだという雛形のようなサウンド。
そこに直球勝負の歌詞が乗せられています。
甲本ヒロトはボーカルも素晴らしいですがブルース・ハープも最高でしょう。
真島昌利はじめバックの演奏もエッジが立っています。
名作アルバム「FIRE AGE」のオープニング・ナンバーにもなりました。
そもそもエイトビートって何のことなの?
そんなことを思ってしまう若いリスナーも多いでしょう。
この曲で響くビートこそがエイトビートそのものです。
Wikipediaからの引用も見てみましょう。
8ビート(エイトビート)とは、ドラム・ビートの態様の1つで、4分の4拍子で8分音符を基本単位としたビート。2拍目と4拍目にアクセントをおくバックビートのスタイルを持ち、ロックをはじめ、多くの現代ポピュラー音楽で使われているスタイル。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/ドラム・ビート#8ビート
文字で説明されるよりも実際にザ・クロマニヨンズの「エイトビート」を聴いた方が理解しやすいです。
「ツツタタ・ツツタタ」というようなリズムのことでロック・ミュージックのビートといえばこれです。
音楽家は「ハチ」や「エイト」と呼ぶことがあります。
エイトビートでは物足りないなんて感じる音楽家がロックを複雑にしてゆきました。
しかし普遍的なロックンロールへの揺り戻しが起こります。
それがパンクムーブメントでした。
ザ・クロマニヨンズもこうした系譜の上にいるバンドです。
ロックから得たありったけの愛への感謝を歌にした甲本ヒロトらしい歌詞になっています。
この曲の歌詞を紐解いてエイトビートへの愛をもう一度心に甦らせましょう。
それでは実際の歌詞をご覧ください。
ロック少年とビート
鬱屈した青年をキックしたもの
ああ 強く閉じて
ああ ふさいでいても
音速ジェット つきささる リズム
出典: エイトビート/作詞:甲本ヒロト 作曲:甲本ヒロト
歌い出しの歌詞になります。
登場人物は語り手しかいません。
語り手の一人称は明示されないのですが、記事のために便宜上、僕としましょう。
僕には抑うつ状態で引きこもっていた過去があったことが打ち明けられます。
若い頃にはブルーな気持ちにのみ込まれてしまうことがときどきあるものです。
精神的にまだ大人になっていないのですから、こうした浮き沈みは仕方のないことでしょう。
しかし人格形成にとってとても大切な時期です。
できれば他人とのコミュニケーションを盛んにした方がいいかもしれません。
一般的にいい大人と呼ばれる人になるためのレッスンとしてふれあいが大事です。
とはいえもっと偏屈になって青春をこじらせてしまう人がいることは否定できません。
甲本ヒロトにもどこかにそうした青春の暗い側面を経験した形跡があります。
だからこそ人に優しい歌を歌えるようになりました。
鬱屈していた僕を救ったのはいったい何でしょうか。
パンク・ロックは弱者を救う
鬱屈してすべてをシャットアウトしていた僕ですがパンクミュージックのエイトビートに惹かれます。
エイトビートはロック・ミュージックの単純な歓びをもり立てるビートといっていいでしょう。
シンプルな音楽であるパンクミュージックがロック少年である僕の心を開きました。
世界にはこんなに素敵な音楽があるのかと目が啓く思いをしたのです。
何か考える前に音が飛んできて心に突き刺さるようなイメージでしょう。
甲本ヒロトにとってはおそらくロンドンのパンクムーブメントが最初の衝撃です。
The Clashが示したアティテュードこそが甲本ヒロトや真島昌利の心を奪いました。
ジョー・ストラマーは心根の優しいパンクロッカーで労働者階級に向けて歌い続けます。
こうしたパンクミュージックの弱者への視線というものを甲本ヒロトは受け継ぎました。
真島昌利にもしてもこの点は同様でしょう。
マーシーに限っていえばThe Clashが苦境にあったときにギターを抱えてひとりで渡英を決意しました。
この計画は実りませんでしたが現実になっていたら音楽界も変わっていたでしょう。
パンクミュージックの中でもビートやリズムに興奮する僕の姿が描かれます。
The Clashのドラマーであるトッパー・ヒードンの演奏は本当に素晴らしいものでした。
暗かった僕の生活にひかりが灯る瞬間です。
どこにでもあるビート
パンク・ロックの歴史は長い
遠く はなれている
ずっと 昔のうた
泣いているよ 笑ってる きょうも
出典: エイトビート/作詞:甲本ヒロト 作曲:甲本ヒロト
パンクムーブメントの起点がどこにあるのかは歴史的な議論になっています。
パンクという言葉はなかった時代にもパンクミュージックのような楽曲はいっぱいありました。
2020年代の現在から見ると遥か遠くの昔に勃興したパンクムーブメント。
しかしパンクミュージックは短命に終わることなく引き継がれてゆきました。
NIRVANAなどのグランジ・ロックもさかのぼるとパンクの影響なくしてありえません。
最先端のテクノ・ハウス・ミュージックにもスピリットはパンクというものが多いです。
またエイトビートの元祖はロカビリーまで遡るでしょう。
さらに戦前のブルースでも「ハチ」で鳴らすミュージシャンがいました。
「エイトビート」で甲本ヒロトはブルース・ハープにこだわります。
ブルースの世界のハーピストに影響を受けたのです。
いずれにしても僕はかつて響いた懐かしい歌にもエイトビートを見出して歓びを得ます。