エイトビートはロック・ミュージックの基本です。
ロックにはアガるようなご機嫌な楽曲もあれば、バラード曲もあるでしょう。
歓びも涙も届けてくれるのがロック・ミュージックの素晴らしいところです。
歌詞では幅広い表現が可能でしょう。
一方でリズムに関してこだわるとどのような曲調でもエイトビートであるのが基本なのです。
こうしたイメージを打ち崩すためにプログレッシブ・ロックが誕生しました。
またブラック・ミュージックでは16ビートを基本とするものもあります。
やがて変拍子にこだわる音楽家も現れるのですが僕の胸にこのような音楽は刺さりません。
あくまでも僕にとってはエイトビートだけがしっくりくる音楽なのです。
喜怒哀楽を同じドラム・ビートで表現できるのですからエイトビートは不思議でしょう。
単純なのに尽きせない魅力が存在するものがエイトビートなのです。
ビートに対して様々に思いを重ねた日々を振り返る僕。
しかしこのいまの瞬間も生きてやるという思いでいっぱいになっているのです。
エネルギッシュな僕の情熱を支えるものこそがこのビートだから皆にシェアしたいと願います。
ロックの勝手さ
生への執着とロックと
ただ生きる 生きてやる
地上で眠り目を覚ます
エイトビート エイトビート
出典: エイトビート/作詞:甲本ヒロト 作曲:甲本ヒロト
甲本ヒロトというはとても華やかで明るいパブリック・イメージを持つ人です。
そんな彼も自分を鼓舞しないと生きられない繊細な側面があります。
自ら生命を絶とうと思ったときにダウンタウンのおしゃべりに救われたというエピソードは著名です。
この顛末はTHE HIGH-LOWSの名曲「日曜日よりの使者」に結晶しました。
この曲「エイトビート」でも生きる力を自らに呼び込もうと必死に歌う姿が感動的です。
もちろんリスナーはそんな甲本ヒロトの自分への呼びかけを我が事として捉えます。
リスナーに生きろとは歌っていません。
しかし甲本ヒロトという人が必死に生きているだけで私たちは勇気をもらうのです。
ロックンロールは人を区別も差別もしないものでしょう。
ビートによって盛んに身体を揺らすことだけを考えているような音楽です。
プリミティブな要素も持っていてロックは化石のような存在とさえ揶揄されます。
しかしそれもロックの勝手ですから仕方がありません。
信じた音楽を誠実にかき鳴らすことがロックンローラーの使命なのです。
単調なビートかもしれないけれど
私たちは日々をひたすら懸命に生きています。
眠って起きて働いてまた眠るだけの生活が続くこともあるはずです。
しかし本当にこれだけのルーティンしか繰り返さないのならばいずれどこかで破綻します。
私たちは文化的なものを心のどこかで絶えず欲しがっているのです。
歌詞は単調な日々の中で鳴り響くビートを歌い上げます。
エイトビートは確かに規則的でこれまた単調なものかもしれません。
しかし16ビートでは忙しないと思う人には心地よい音楽として響くでしょう。
変拍子も最初のうちは驚かされますが、慣れると変拍子も拍子のひとつに過ぎないことに気付きます。
どのリズムが特権的な価値を持っているというものではありません。
戦前ブルースに見られるリズムが盛んに裏返ったりして不思議な魅力がある音楽も最高です。
順列や階層というものを音楽の趣味に持ち込むのはもったいないことでしょう。
しかしどうしても身体との馴染みがいいビートというのがあるものです。
甲本ヒロトという人にとってはそれがエイトビートなのでした。
熱狂的なエイトビートへの愛着が微笑ましく思える歌になっています。
ロックが複雑になる前に叩き出されたビートは否応なく人を揺らしたのです。
甲本ヒロトにとってはこのリズムパターンが生活を一貫するものにまでなってしまいました。
甲本ヒロトと詩
シリアスな視点が生きている
ああ ゆくえ知れずの
ああ おたずね者が
どこかで モールス信号 たたく
出典: エイトビート/作詞:甲本ヒロト 作曲:甲本ヒロト
甲本ヒロトらしい詩的なラインです。
ブルーハーツやTHE HIGH-LOWS時代に比べるとザ・クロマニヨンズの歌詞はシンプルでしょう。
ナンセンスな笑いに振り切ってゆく歌詞を甲本ヒロトに限らず真島昌利も書き続けます。
ふたりの作家は仲良く時代を超えてきました。
そして時代ごとに自分の表現をブラッシュアップさせているのです。
ブルーハーツでは情熱的に、THE HIGH-LOWSではより複雑な局面を描いてきました。
しかしザ・クロマニヨンズではニコリと笑える歌詞というものへ全振りをしているのです。
それでもこのラインのように特別な詩才がのぞける箇所はたくさんあります。
所在すら分からない人間が危難を伝えるためにビートを繰り出す光景。
どこかから鳴り響いてくるそのメッセージに耳を傾けようとするのです。
シリアスな視点というものをザ・クロマニヨンズでも維持していることの証でしょう。
ならず者こそ詩人になる
果敢にビートを紡いでいるのは社会の周縁部にいるような人たちだと表現しています。
どこからか聴こえてくるその音は悲鳴に似たものかもしれません。
ロック・ミュージックには楽しさも切迫さも両方あるものです。
ジョン・レノンが「HELP!」と訴えてからロックの歌詞というものも変わってゆきます。
ボブ・ディランがアコースティック・ギターからエレキギターへと転向しました。
ロックの歌詞がより内容の濃いものに変わってゆくのです。
伝えられることはよりシリアスなものになりました。
もちろんパーティー・ソングの文化も廃れません。
ただ甲本ヒロトが影響を受けたThe Clashはジョン・レノンだけを本物のロッカーとして免罪します。
また、ジョー・ストラマーとボブ・ディランはとても仲のいい友だちでもありました。
ならず者たちが詩人になって人びとを魅了すること。
社会問題への注意喚起さえしたのがジョンでありディランでありパンクロッカーです。
そのときのリズムもまたエイトビートでした。
ロックの反骨精神というものがまだまだ健在であることを甲本ヒロトは伝えきるのです。
最後に ロックは生きている
ただ生きる 生きてやる
呼吸をとめてなるものか
エイトビート エイトビート
出典: エイトビート/作詞:甲本ヒロト 作曲:甲本ヒロト