彼女はタレントとしてスカウトされるほどのルックスや才能に恵まれていました。
でも彼女が目指したのは「芸能人」ではなく「ミュージシャン」なのです。
サイズは小さくても本物に近い音が出るトイピアノは、幼き頃の彼女自身。
この音を本物にして誰かに聴かせたいというのが、彼女の夢の芽生えだったのでしょう。
首を左右に傾けながらにこやかに鍵盤を叩く様子は、まるで幼い子どものように見えます。
幼き彼女は床に座ってトイピアノを弾いて、花咲く自分を夢見ていたのです。
ネガティブに見えるポジティブ要素
気になる2つのシーン
間奏で気になる映像として、うつ伏せになった人形が挙げられます。
また2つ並んだメトロノームの動きにも違和感があります。
これらの意味に迫ってみましょう。
お人形を捨てた理由
トイピアノのサイズで満足できる年齢というと、4〜5歳くらいでしょうか。
その年齢の女の子の遊びとして外せないのが、お人形遊びです。
お友だちと遊ぶのはもちろん、ひとりでもひとりだと感じずに遊べるお人形。
それが無造作に投げ出されているような映像が映し出されます。
彼女はお人形遊びをした経験はあるのです。しかしお人形遊びよりも大切なものができました。
それが「ピアノを弾くこと」なのでしょう。
お人形はニットのロングドレスを着ています。袖がなく、腕を大きく上げている格好です。
ピアノを弾くときは肩や腕が動かしやすいよう、袖がない服や短い服が好まれます。
彼女はこのお人形をピアノの前に座らせて、演奏会の真似事をしていたのではないでしょうか。
しかし音楽に魅せられた彼女は自分自身がピアノを弾くことを選んだのです。
なにかに別れを告げてでも追いかけたい夢だったのでしょう。
2つのメトロノームと音の関係
2つ並んだメトロノームの動きを見ながら音を聴いてみてください。
少し違和感がありませんか?
メトロノームの拍子と音が微妙にずれているのです。
「2」という数が表すのは主人公と「君」の2人でしょう。
2人はそれまで聴こえていた音から離れ、何らかの夢に向かってリズム良く歩き出しました。
離れれば離れるほどその音は聴こえにくくなり、歩調と音にずれが生じます。
でもいつか再会したときには、音と歩調がピタリと合うのではないでしょうか。
メトロノームのズレは決してネガティブな意味ではなく、今は旅の途中なのだという意味を感じます。
夢を叶えるための努力
2番に入るとトイピアノではなくギターを弾き始めます。
地面ではなく脚立のようなものに腰掛けていますね。
背景がピンク色なので、きっと彼女は夢に向かって歩いている最中なのでしょう。
脚立からは一歩ずつ階段を上っていくという意味を感じます。
焦らず急がずやってきたからこそ、今の彼女がいるということですね。
ギターを本に持ち替え、メモに持ち替え、カメラに持ち替えるシーンも印象的です。
音楽で生きていくためには音楽だけではなく、様々な感性を磨かなければなりません。
特に彼女のように作詞・作曲全てを手掛けるのならなおさらです。
彼女はそれを知り、あらゆる努力を積んできたのだと読み取れます。
旅支度
足元にご注目!
イントロには茶色いトレッキングシューズが映し出されました。
でも彼女の足元はトレッキングシューズではなく革の紐靴。
どちらも色味が同じで紐靴なため、見分けがつきにくいですね。
トレッキングシューズはどこへ行ったのかというと、2番のサビで登場しました。
床に座った植田真梨恵さんはトレッキングシューズを履き、紐を結っています。
ここも少し違和感がありませんか?
靴が大きいのです。
大きな靴の意味
靴を履いた後の彼女がどうなったかは、ラストのサビが終わるところで分かります。
彼女は自分の足元の大きな靴をじっと見つめ、そして歩き出すのです。
サイズが合わない靴、特に大きすぎる靴を履けば歩いた途端に靴が脱げてしまうかもしれません。
でも大丈夫、なぜなら紐靴だからです。
靴は自分の体を支え、危険なものから身を守ってくれる大切なもの。
靴を選ぶときは実際に履いてみて足に合ったものを買う、といわれるのもこのせいですね。
足のサイズに合った靴は安全です。
でもまだ足が大きくなるかもしれないのに、靴がピッタリでは窮屈で足が大きくならないのではないでしょうか。
彼女が大きな靴を選んだのは、自分の可能性を信じているからです。
まだ大きくなれる。まだ成長できる。だから余白ができる大きな靴を選んだのだと考えられます。
しかし歩き出してすぐに脱げてしまわないように、紐はしっかりと結びました。
前に進みたいという思いがあるならそれ相応の支度が必要、という意味が読み取れます。
その支度とは、別れの悲しみを飲み込む決意や、笑顔で送り出す勇気です。