とはいえお仕事はとても順調なの
お仕事が順調。いいことですね。
僕はお仕事が順調だったことなんてぜんぜん無いので羨ましいです。厳しいぜ、社会ってやつは。
でんぱ組.incは押しも押されぬ人気アイドル。お仕事も順調でしょう。
でもアイドルをはじめ、芸能人のお仕事が順調というのは僕らのような普通の人のお仕事が順調とは違います。
授業が終われば帰れる。定時になれば帰れる(実際には帰れないことの方が多いけど)のとは違い、際限なく忙しい。
テレビやネット配信。ライブにPV撮影。インタビュー。レッスンだってあるでしょう。
つまりお仕事が順調というのは、あまり休めていない状態を指し示しています。
そりゃあそれとなく疲れもしますよ。だって人間だもの。
歌詞の中では「それとなく疲れてる」→「でも仕事は順調」という動きを見せていますが、実際は逆。
「仕事は順調」→「だからそれとなく疲れてる」こうなるわけです。
私ってちょっと強くなったと思うよ
通り雨を振り返ったら
路地裏から猫が見てた
この声聞こえていますか?
私ってちょっと強くなったと思うよ
出典: あした地球がこなごなになっても/作詞:浅野いにお 作曲:釣俊輔
なんと情緒ある歌詞でしょう。
通り雨。路地裏。猫。淡々とした描写ながら、淡々とした描写だからこそ、情景が目に浮かびます。
路地裏の猫に話しかける際に「この声聞こえていますか?」「私ってちょっと強くなったと思うよ」
自信の無さが現れている。
確認しないと猫にも話しかけられない。「強くなった」とは決して言い切れない。
疲れている時ってそういうもの。元々自信の無い人であればなおさらそう。
再三言いますが、彼女たちは人間です。
認められなかったり非難されなかったり、世界で一人ぼっちな感覚だったこともきっとあるでしょう。
でもそんな人間が、言い切れないまでも「ちょっと強くなったと思う」と自分を認めている。
泣ける。
あした地球がこなごなになるなら自分勝手も許されたい
明日地球がこなごなになって
宇宙のちりになって消えたら
プリズムみたいなおしゃれして
最低!ってそう言って寝込んでやる
強がりばかりくたくたになって
泣いちゃうこともあるからさ
ぎゅっと抱き寄せて
それだけなの
それだけなのお願い
出典: あした地球がこなごなになっても/作詞:浅野いにお 作曲:釣俊輔
あした地球がこなごなになるなら、皆さんならどうしますか?
パニック映画とかでありがちですが、きっとみんながみんな自分勝手に暴れまわるでしょう。
泣き喚く人もいるかもしれません。
あしたで地球がこなごなにならないように必死になる人もいるでしょう。アルマゲドンみたいに。
この歌詞の中では、つまりはでんぱ組.incのメンバーは、寝込んでやるらしいです。
気持ちはわかります。もうどうすることもできないなら、眠ってそのときを待ちたい。僕そのタイプですね。
泣いちゃうこともあるからさ
人間は強がるものです。なんかスケールの大きい話になってしまった。
元々あした地球がこなごなになってもとか言ってんだからまあいいか。
それに比べれば「人間」という主語もスケールが小さいものです。
どんな人間でも強がることはあるでしょう。
心配をかけたくない気持ちからだったりプライドだったりハッタリだったり性質の違いはあるにせよ。
この歌詞の中でもそう。でも、強がりばかりじゃくたくたになって泣いちゃうこともあると言い切ります。
こういった自分の弱った部分を言い切れるというのはとても強い。いや、強くなったのかもしれません。
強くなって、それでも弱っている事実は変わらない。
繰り返し「お願い」と言いながらぎゅっと抱き寄せてほしいシーンは泣けますね。
弱さをさらけ出すのには勇気がいるのです。
二番はどうなる?
明日地球がこなごなになって
宇宙のちりになって消えたら
オーロラみたいなメイクして
最低!ってそう言って死んでやる
怖くはないよぐだぐだになって
怠けることもあるけどさ
ぎゅっと抱き寄せて
無理してるの?
無理してるよごめんね
出典: あした地球がこなごなになっても/作詞:浅野いにお 作曲:釣俊輔
二番のサビの後半部分は、「無理してるの?」「無理してるよごめんね」という会話になっています。
この会話の相手はぎゅっと抱きしめてと頼んだ相手なのか、はたまた自分自身なのか。
そもそも「抱きしめて」が、明確な相手を思い浮かべているとは限りません。
誰でもいいから抱きしめてほしい夜とかもあるじゃないですか。
あるんですよ。僕は大人ですけど。いや、大人だからあるのかも。
ただなんとなく、漠然とやさしさに包まれたい。そんな気持ちではないでしょうか。
「無理してる」と言い切れてしまう強さ。そしてその上で「ごめんね」と付け足す慈愛。
みんな毎日を普通に生きている大人なんだな、と思います。
たとえ世界が終わる日も
「ここへおいで
君がいるなら
たとえ世界が終わる日も
理不尽も矛盾も抱きしめて
最高のステージ見せてやる
360°あおぞらに浮かんで
たゆたって宇宙船つかまえにいこう
きっと約束だよ
約束だよお願い」
出典: あした地球がこなごなになっても/作詞:浅野いにお 作曲:釣俊輔
さていよいよ最後の歌詞です。
この部分に関しては最初から最後までカギ括弧によって囲まれています。
つまり、明確にメンバーのセリフ(意思)としての歌詞になっています。
「ここ」はライブハウス。「君」はファン。
ファンがいるなら最高のステージを見せる。
それはどんな状況でも変わりません。
それこそ、あした地球がこなごなになっても、彼女たちは最高のステージを見せてくれるでしょう。
それがでんぱ組.incの、アイドルとしての心意気。ファンに対する愛情。
素直にかっこよすぎますね。
流れ星は「宇宙船」という具体性を持ったものに姿を変えます。
希望が視認できるようになった瞬間です。
周りにはなにも無い、360°あおぞら。
自分次第で何処へだっていける空間で、彼女たちは希望を捕まえにいきます。
最後の「お願い」はもはや弱弱しさではなく、明確な意思です。
明確な意思を持った約束が、彼女たちには今後の希望として、宇宙に浮かんだのです。
希望が宇宙に浮かんでいるなら、あした地球がこなごなになっても大丈夫です。
まとめ
如何でしたでしょうか。
どこまでも人間である彼女たちに見え隠れする弱さと強さ。
固まった意思。見えてきた希望。
そしてこれからの生き方。
この記事ではアイドルだって人間と再三言ってきました。
しかし、彼女たちはその前提の上でアイドルとしての希望を、アイドルだからこその希望を見出したのです。
もう星は流れません。
刹那的な流れ星は宇宙船へと姿を変え、そこに留まります。
下積みやメンバーチェンジを経て現在の形となったでんぱ組.inc。
手を伸ばせば手に入る希望に向かって、これからも突き進んでくれることを祈っています。