雨降る東京に悲しみを擬えて
桑田佳祐の「東京」は歌謡曲を思わせるブルージーで情念溢れるサウンドが印象的な一曲です。
雨音を思わせるピアノの音に、唸る情念を感じさせるギターサウンド。
そこに桑田の感情を乗せた歌声が重なり、強い感情に揺さぶられるバラードナンバーとなっています。
タイトルは「東京」という、ごく短く大都市の名を冠したもの。
しかし「雨の東京」という情景には、深く哀しい暗示がこめられていました。
雨降る東京に重ねた恋心とは。
そして捨ててしまった恋慕がくれた大切な想いとはどんなものだったのでしょうか。
雨の東京が暗示する恋慕の情を、歌詞ひとつひとつから読み解いていきましょう。
雨の降る大都会で
涙のように滲む灯
街の灯が滲むほど
雨音が窓を叩く
出典: 東京/作詞:桑田佳祐 作曲:桑田佳祐
ゆっくりとした歌い出しで描かれるのは、雨に滲む街の灯り。
それはまるで涙で滲んでいるかのように映ります。
窓を叩く雨は激しく、重く鬱屈した想いを表しているかのようです。
暗く落ち込んだ想い、哀しみが伝わってきます。
幸せな今と失ったもの
幸せと知りながら
心にさす傘は無い
出典: 東京/作詞:桑田佳祐 作曲:桑田佳祐
主人公(ここでは「男」とします)は、現在幸せであることを自覚しているようです。
けれど心の中は雨が降り続いているように重く暗いもの。
雨を防ぐ傘がないように、男もまた心の中の重い哀しみや苦しさから逃れるすべがないのです。
陰鬱な落ち込んだ気持ちが伝わってくる一節です。
東京という街が示すもの
雨降る東京に重ねる心境とは
東京は雨降り
何故 はかなく過去を濡らす
出典: 東京/作詞:桑田佳祐 作曲:桑田佳祐
男は雨降る東京に己の心境を重ねます。
雨の大都会に重ねられた男の心境とはどんな想いなのでしょうか。
雨が降る光景に重ねられるのは、涙や哀しみの心境。
そして暗く閉ざされたような陰鬱な心境が伝わってきます。
そして「東京」という都市の名が使われていることにも迫ってみましょう。
東京は言わずとしれた日本の首都であり、最大の都市です。
そこには人も物もなにもかもが集まる場所。
なにもかも手に入る豊かで便利な都市のはずです。
しかしその東京は今雨に濡れている。
男の心境になぞらえれば、なにもかもが手に入る立場にあるのでしょう。
先の歌詞からも、男は客観的にいえば幸せともいえる立場にいます。
なにもかもがある中で、恋い焦がれたひとりの人だけがいない。
雨の東京に男が擬えた想い。
それはなにもかも手に入る現在と、恋した人だけが手に入らなかった哀しみなのです。
夢の中でしか逢えない人へ
今宵 夢の中へ逢いに来て
Just wanna do ya, I gotta do ya, ah...
出典: 東京/作詞:桑田佳祐 作曲:桑田佳祐