生き急いだ人
かたくなに夜に住み キミの夢を見る
変わらない人をたずね 道にまようよりも
終わらなくとどく声 はるか道の上
キミがまた歌う時 花は急いで咲く
出典: Lotus/作詞:平沢進 作曲:平沢進
ひとりの夜から逃げることはできません。
夜を克服するためにはどれだけの夜を重ねれば良いでしょうか。
昼間の光の中で多くの人との出会いを繰り返しても「キミ」を消し去ることはできません。
朝を待つことは離れて行く記憶を待つことではないのです。
私が近づいていくことでまた会えることを知ったのでしょうか。
私の声に気付いてくれた時「キミ」も一緒に歌ってくれるはずです。
駆け寄るように花も咲いてくれます。
「Lotus」の花も私に会いたいと言っているようですね。
このあたりもとても美しい歌詞です。
天空まで
かたくなに夜に住み キミの夢を見る
変わらない人をたずね 道にまようよりも
終わらなくとどく声 はるか空の下
キミがまた歌う時 胸に咲くロータスよ
出典: Lotus/作詞:平沢進 作曲:平沢進
「キミ」の歌声を思う時、もう迷うことはないと私の心に話かけます。
同じように奏でればよいのだと、宇宙まで響くような声で話しかけるのです。
私がひとりで生きると決めた時から私の声は力強く届きます。
重い泥の中から首をもたげ咲く「Lotus」は答えてくれるのです。
私が夜を超えて朝を迎えるように「キミ」も何度でも生まれ変わればいいのだと。
その花に話かけているようです。
人は大きな試練に遭遇することで大きく変われます。
水蓮は泥が深く濃いほど大きく美しい花を咲かせるといわれていますね。
いつかまた会える時までその花を心に秘めて生きていけるのではないでしょうか。
まとめ~言葉の力
この「Lotus」の歌詞を考察してみてもわかることですが、全くといっていいほど感傷的な言葉が出てきません。
人間の基本的な感情を表すような言葉が一見したところでは見当たらないです。
だからといって淡々とした冷たい歌詞なのかというとそうではありません。
心の機微を揺らす細やかな歌詞が多いのです。
言葉自体が奇抜で目立とうとしているわけでもありません。
ひとつひとつの言葉の中に深く意味を探れるものが選んであり、しかもわかりやすいのです。
慎重ですがいつも的を得ています。
今回この「Lotus」には底知れぬ無常感のようなものがありました。
特に花が咲く様子を「生き急いだ人」になぞらえているあたりはとても粋な表現にも思えます。
新しい電子機器を駆使しながらも時代を超えて語り継ぎたい文化があることが伝わってきますね。
SWITCHED-ON-LOTUSについて
1995年頃から平沢進さんはタイ王国に行かれたことで楽曲制作にも変化がありました。
タイ王国は仏教国でもありますので水蓮とのイメージも繋がりますね。
この曲もその頃に書かれたものでしょう。
そして「Lotus」にまつわる曲は他にもあります。
2002年に公開されたアニメーション映画「千年女優」のオリジナルサウンドトラックに収録されているものです。
その中に「 Lotus Gate (Landscape-1)」と「Rotation (LOTUS-2)」があります。
そしてもうひとつ特筆しておきたいのは「SWITCHED-ON LOTUS」というアルバムです。
「Switched-on」は麻薬に酔うという意味があるようなのでロータスに酔うという意味でしょうか。
2004年に発売されたこのアルバムは平沢進さんにとって特別なものです。
ちょうどその頃平沢進さんの音楽に多大な影響を与えたタイ王国のニューハーフの方々が次々と亡くなるということが続きました。
このアルバムはその方達のためのレクイエムとして作られたものです。
「Lotus」などの旧作も収録され楽曲「SWITCHED-ON LOTUS」が書き下ろされています。