主人公がこれまでの行い全般を振り返っているようにも感じられるフレーズですね。
しかし「迷子になった」という事実を踏まえて読んでみると、迷子の原因が見えてくるでしょう。
迷子になったのは「自分がいい子ではなかったから」といっていますね。
つまり母親からの言いつけを守ることができず、自らその場を離れていったのだとわかります。
原因はちょっとしたワガママ
オモチャ売場になんか行かなければ よかったんだ
こんなことにならなかったのに
もしもこの声が聞こえたらここまで
いますぐに僕を迎えに来てください
出典: おばけでいいからはやくきて/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観
ここでようやく、主人公が迷子になってしまった理由が詳細に明かされています。
オモチャを見たい。心に生まれてしまったちょっぴりワガママな気持ちが彼を突き動かしたのでしょう。
自業自得の展開であることは幼いながらに彼も理解している様子。
しかし母親とつないだ手を振りほどいた時点では、こうなることなんて予測できませんでした。
迷子のリスクよりも、目の前に広がるオモチャの誘惑に負けたのです。
直前まで涙をこらえ、強がって母親の姿を探していた主人公。
しかし3行目に注目すると、母親が声を頼りに自分を見つけ出してくれたら…と願っていますね。
きっと彼はこらえきれなくなって、とうとう泣き出してしまったのでしょう。
母親が隣にいない淋しさ。母親の言いつけを守れなかった自分のふがいなさ。
そしてこの声で母が見つけてくれるだろうという希望。
この泣き声にはきっとたくさんの意味がこめられています。
店内アナウンス
お客さまのお呼び出しを申し上げます
出典: おばけでいいからはやくきて/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観
ここで少し主人公の気持ちから離れ、客観的な視点を入れています。
実はこの機械的なアナウンスが、ここまでのシーンとこれから続くシーンをうまく繋いでいるのです。
ここから先はより一層、主人公の心の揺れ動きに迫っていきます。
主人公の学び
おばけより怖いものに気がつく
「いい子にしないとおばけが出るよ」って
なにより怖いのはこの1人ぼっちだったんだ
おばけでもいいからはやく
でてきてよ ここから連れだしてよ
出典: おばけでいいからはやくきて/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観
先ほどのアナウンスから察するに、この時点で主人公は迷子として保護されたことがわかります。
きっと店内の迷子センターで1人淋しく母親の到着を待っているのでしょう。
少なくとも信頼できる大人に守ってもらえていますから、本来は主人公にとって安心できる環境に違いありませんね。
しかし彼の心は全く落ち着きません。迷子になって1人ふらふらと彷徨っていた数分前と、何ら変わりないのです。
それは彼を包み込む不安が「孤独」からくるものだったから。周囲に何人大人がいようと関係ありません。
主人公の孤独を癒せるのは、母親ただ1人なのですから。
母親と再会できるその瞬間まで、主人公は一切気を抜くことができません。
そしてとうとうここで、タイトルにもある「おばけ」が登場しました。
母親以外の大人に囲まれていることで居心地の悪さを感じていた主人公。
早く母親のもとに戻りたいという想いが「おばけ」という存在に結び付いたのでしょう。
普段なら恐怖の対象であるおばけですが、人間とは違う存在であることは理解している様子。
そんな不思議な存在のおばけなら、自分をすぐにでも母親のところへ連れて行ってくれるのではないか。
主人公はそう考えたのかもしれません。子どもらしさあふれる可愛らしい発想ですね。
怖いおばけに頼ってしまうほどに母親が恋しく、早く会いたいと願っているのでしょう。
オモチャより欲しかったのは
欲しかったのはどれもおもちゃばかりで
こわれたらつまらなくなった
もしもこの声が聞こえたらここまで
いますぐに僕を迎えに来てください
出典: おばけでいいからはやくきて/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観
ここでは普段の自分を振り返りながら、子どもなりに「1番大切な物」を考えています。
迷子の原因は、主人公が母親から離れて勝手にオモチャ売場へ向かったことでした。
きっと欲しいオモチャが立ち並ぶその売場は、夢のような空間だったに違いありません。
しかしオモチャにも命があります。壊れてしまえば使えなくなってしまう。
オモチャが主人公の心を満たしてくれるのは、壊れるまでの短い時間だけでした。
しかし対照的に母親の存在、そして母親から注がれる愛情は主人公にとって永遠です。
目に見えないけれど、とても大切なものだったんだ。
彼は迷子という経験から、目に見えない絆や愛を学びました。