空前のブーム
窮屈な社会へのカウンターパンチ
昭和40年代生まれの人には懐かしい「つっぱり(ツッパリ)」という言葉。
いわゆる非行少年、不良少年を指した俗語です。
広く使われていたのは、1970年代から1980年代半ばまでのこと。
中学生を中心に、青少年の非行が急増した時代と重なります。
そうした現象の引き金となったのは、子供たちを押さえ付ける管理型教育だったといえます。
1980年代後半以降、「ヤンキー」という言葉に置き換わったこの言葉。
死語となって久しいように思われますが、1980年代初めに、ある社会現象を巻き起こします。
それは、窮屈さを強いる社会に対する、青少年のカウンターパンチでした。
さまざまなメディアやコンテンツを巻き込んだ、空前の「ツッパリ」ブーム。
カウンターパンチは広がりを見せ、カウンターカルチャーへと成長します。
その最先端を走っていたのが、音楽でした。
横浜銀蝿の存在
「ツッパリ」ブームの立役者
「ツッパリ」ブームの立役者であり、牽引したのは、お世辞ではなく一世を風靡したロックンロールバンド。
1980年に4人組でデビューしたTHE CRAZY RIDER 横浜銀蝿 ROLLING SPECIAL、通称横浜銀蝿です。
そのスタイルは、リーゼントにサングラス、ライダースの革ジャンに、「ドカン」と呼ばれた極太ズボン。
まさに、当時最盛期を迎えていた暴走族をイメージさせるものでした。
見た目とは裏腹に、その音楽性はパワーポップを彷彿とさせるシンプルなロックンロール。
ツッパリ目線の歌詞も愛嬌があり、親しみやすいトーンでした。
1981年にリリースした2ndシングル「ツッパリHigh School Rock'n Roll(登校編)」は大ヒット。
ブームを牽引した彼らは数多くのシングル、アルバムを重ね、1982年には日本武道館のステージにも立ちます。
そんな彼らのサクセスストーリーは、「ぶっちぎり」というタイトルのドキュメンタリー映画にも。
そんな強い磁力に引き寄せられるように誕生したのが、銀蠅一家なるコンセプトでした。
彼らの弟分や妹分として、「ツッパリ」系のアーティストが続々とデビューするのです。
「銀蠅一家」としてデビュー
大ヒットした「男の勲章」
銀蠅一家のデビュー第1号を飾った人物。
それこそが、1982年にシングル「Sexy気分の夜だから」で歌手デビューした嶋大輔でした。
横浜銀蝿のコンサートを見に行った際にスカウトされ、1981年に俳優デビューを果たした彼。
「男の勲章」は、2ndシングルとしてリリースされます。
硬派なタイトルにぴったりな歌詞と、ほのかな哀愁が漂うメロディー。
疾走感もあふれるこの曲は、週間チャートで3位に食い込む大ヒットを記録しました。
ちなみに、ベテラン俳優となった杉本哲太は、嶋大輔に続いて銀蠅一家からデビュー。
「紅麗威甦」(グリース)というロックンロールバンドで、ボーカルとサイドギターを担当していました。
ちなみに、デビューシングルは「ぶりっこROCK'N ROLL」というタイトル。
週間チャートのトップ10にランクインしました。
爽やかな「ツッパリ」
本質は青春ソング
つっぱることが男の たった一つの勲章だって
この胸に信じて生きてきた
泣きたくなるような つらい時もあるけど
いつも俺達がんばってきた
時の重さに 流されそうになった時でも
歯をくいしばり たえてきた
ガキのころ 路地裏で見た 夜空にキラめいた
流れる星を見て 誓った思いを忘れちゃいないぜ
出典: 男の勲章/作詞:Johnny 作曲:Johnny
「つっぱることが男の」という印象的な歌詞で始まる「男の勲章」。
自身が「ツッパリ」であるということを明らかにした、「ツッパリ」ソングです。
この曲がヒットした理由は、いくつかあるでしょう。
若手俳優として注目されていた嶋大輔の魅力、口ずさみやすいメロディー。
しかし、その歌詞の意味を独自に考察したとき、ある奇妙な点に気付くのです。
暴走族風の「ツッパリ」ファッションで、「ワル」をアピールしているはずのこの曲。
その歌詞は、まっすぐに生きる若者の心を歌った、爽やかな青春ソングなのです。
例えば、リアルな非行少年に付きものの暴力性。
そうしたものは、気配すら登場しません。
さらに突き詰めれば、歌詞にはおよそ不良のイメージとかけ離れた言葉も少なくないのです。
「泣きたくなるような」
「がんばってきた」
「たえてきた」
せいぜい「ツッパリ」らしさを感じるのは、大人ぶった「ガキのころ」というフレーズだけ。
そうした視点に立って考えれば、さらなることにも気付きます。
「男の勲章」も、兄貴分の横浜銀蠅の曲も、その本質はストレートな青春ソングであるということ。
そう考えれば、彼らの曲が思春期の若者たちの絶大な支持を集めたのも納得できます。
つまり、実際に「ツッパリ」と呼ばれる連中以外も共感できたのが「ツッパリ」ソング。
そんな器の大きさを持っていたからこそ、大ヒットしたのです。
学校や家庭で窮屈を強いられる毎日の鬱憤を、軽快なロックンロールに乗せて晴らす。
あるいは、異性への純情を歌った曲に耳を傾け、ちょっぴり大人びてみる。
青少年のささやかな欲求を満たすギミックを分かりやすく提供したのだといえます。