本当は本心をさらけ出したかった

貴方は泣きそうな顔で
憎しみを語る
それで今よりマシになれるなら
誰でもないものになりたいと祈った
世界の色がぼやけていく

出典: 空気よりも透明な/作詞:京寺 作曲:ウエノルカ、眩暈SIREN

ここでいう貴方とは、主人公自身のことでしょう。

他人に本心を見せまいとする彼が語り掛けるのは自分自身。

他人には言えない憎しみを自分の中でだけで募らせていく様が目に浮かびます。

彼の言う「誰でもないもの」とはタイトルに表現されている通り「空気よりも透明なもの」。

空気のような他人から意識されない存在になれば、その憎しみを噛み殺して笑顔を振る舞う必要もありません。

これは裏を返せば主人公が人目もはばからず本心をさらけ出したいという想いの表れではないでしょうか。

自分に価値を見出すことを諦められないでいる

千切れて剥がれて
粉々になってしまえば
また一から始めようなんて
思わないで済むんだ

出典: 空気よりも透明な/作詞:京寺 作曲:ウエノルカ、眩暈SIREN

何かに挫折したとしても「また一から始めよう」と思い直せるのは、きっとそこにわずかでも希望が残っているからです。

希望も何もかも奪い去られ、完膚なきまでに叩きのめされた状態ならそんなことは思わずに済むという主人公。

要は自分に希望を持たせるようなことはしないでほしいと言いたいのではないでしょうか。

自分に価値を感じられないでいるものの、自分に価値を見出すことを諦められない自分もいる。

この部分はその葛藤の苦しさを表しているように感じます。

主人公はさっさと自分に価値を見出すことを諦めて楽になりたいのです。

諦められずにもがき苦しむ不幸

よく似たこの目も不幸の証
思い出させてしまう
流れる痛みで濡らし
形も残らないほど腫らした

出典: 空気よりも透明な/作詞:京寺 作曲:ウエノルカ、眩暈SIREN

諦めて楽になった方が、かすかに希望が残されているよりも幸せだと言いたいのでしょう。

希望が残されているからこそ思い悩まなければいけないし、そのせいで目が腫れるぐらい涙も流した。

そんな自分のもがき苦しむ様子が表されたようなこの目は不幸の証だと、主人公は語ります。

形骸と空想に打ちのめされている自意識
どこにもないよ
自分が希薄になっていく

出典: 空気よりも透明な/作詞:京寺 作曲:ウエノルカ、眩暈SIREN

形骸というのは形だけで中身がないという意味。

その言葉を表したような不甲斐ない自分がいるのに、願うこともおこがましい空想が頭をよぎってしまう。

一番で歌われていた「本心をさらけ出したい」という想いもこの空想に入るのでしょう。

不甲斐ない自分を棚に上げて希望を見出そうとすることに対して、自分をどんどん嫌いになっていってしまう主人公。

希望を見出そうとしているのが自分なのか、それに嫌悪を覚えているのが自分なのか。

自分の気持ちが自分でもわからなくなってしまっている様子を彷彿とさせます。

全て諦めて生きることが正しい選択

貴方は泣きそうな顔で
間違いと言う
じゃあ選択を正してこれからは幸せでいて
誰でもないもので居続けるよう祈った
世界は遠く霞んでいく

出典: 空気よりも透明な/作詞:京寺 作曲:ウエノルカ、眩暈SIREN

ここでまた主人公が自分自身に語り掛ける描写が登場しました。

自分のような人間が希望を見出していること自体が間違いだと彼は言います。

彼が正しいとする選択は、なんの希望も見出さず全てを諦めて生きること。

この無気力さも「空気よりも透明な」というタイトルに準じていますね。

自分の苦しみよりも、自分の存在が周りにとって迷惑

どれだけの時間を
悲しみと怒りで満たしてきたんだ
振り下ろした腕の痣は
自分の痛みじゃ無い

出典: 空気よりも透明な/作詞:京寺 作曲:ウエノルカ、眩暈SIREN

自分との葛藤の中で悲しみや怒りをあらわにしてきた主人公。

ここで気になるのはそれらを「自分の痛みじゃない」と言っているところ。

主人公が葛藤していたのは、周りに対してではなく紛れもなく自分に対してです。

これは自分がそれで苦しむことよりも、そんな自分が存在することが周りにとっての迷惑になるという気持ちの表れではないでしょうか。

主人公は自分の苦痛なんかはどうでもよくて、とにかく周りに迷惑を掛けたくないのです。