「あの世行きのバスに乗ってさらば。」のサウンド

「ツユ」の全体的なサウンドとしてはエレクトリカルポップとロックの間といえます。

作曲を担当する「ぷす」がもともとボカロPだったこともあり、どことなくエレクトリカルな音楽なのです。

その中でも「あの世行きのバスに乗ってさらば。」はぷすらしさが出ている音楽といえるでしょう。

もともとぷすはボカロPだった頃にもキャッチーな音楽とともに暗めの歌詞の曲を多く作っていました。

ヘイセイプロジェクトなどはその最たるものです。

いわゆる「病んだ」ような歌詞がポップともいえるエレキの音に乗ることで、中毒性を生み出しているのです。

また、その歌詞の主題が劣等感や敗北感であることも魅力です。

特に20代までの若者の共感が高い、といわれているのです。

それら魅力に加え、MVもかなり魅力。

かわいらしい絵柄なのに、少し抑えた色味を使うことで独特の世界観をつくりあげています。

きらきらしているわけでもなく、題材は少し暗い。

それなのに人気が衰えない理由はこの音楽の中毒性や歌詞の共感性、そしてMVの独特の世界観なのです。

劣等感の塊

生きていることに罪悪感

幼い頃 殺めた命は数えきれず
小さな命を葬っては平然と笑って帰路についた
今になって考えたら真っ先に死ぬのは私でよかった

出典: あの世行きのバスに乗ってさらば。/作詞:ぷす 作曲:ぷす

まずこの歌詞では、幼稚園ごろの記憶が歌われています。

子どもの無邪気さはときに残酷ですよね。

みみずやバッタ、トカゲ、カエルなどの命を奪った苦い経験を持つ人も少なくないでしょう。

そんな記憶を「私」も持っています。

自分が殺してしまった命というものに罪悪感を抱いているのです。

とはいえ、それだけでは自分が死ねば、という思いになりません。

つまり、この時点で彼女は自分が生きていること自体に罪悪感を抱いていると考えられます。

その他大勢に埋没

うらうらとした周りの空気が濃くて
存在価値を奪うでしょ

出典: あの世行きのバスに乗ってさらば。/作詞:ぷす 作曲:ぷす

この歌詞は、一見どういうことかわかりませんよね。

しかし、この空気というのはもしかすると雰囲気といいかえられるかもしれません。

いわゆる同調圧力というものです。

みんな同じならば「存在価値」という言葉に意味がありません。

しかし、それをわかっていながらも浮きたくない、という理由でみんなと同じようにしてしまう「私」。

そこには深い葛藤があります。

面倒で、絡まるような圧力や雰囲気を「うらうらとした」という独特な擬音語で表現しているのではないでしょうか。

生命に絶望

生涯へのあきらめ

生命線とか無駄に長いだけで
何の役にも立たないただのしわだよ
心の奥がしょうもない人生観を嘆いているの
耳に刺さる理想 吐き捨てて

出典: あの世行きのバスに乗ってさらば。/作詞:ぷす 作曲:ぷす

この歌詞では、「長生きすること」に対しての漠然とした嫌悪感が描かれています。

生命線とは、手相における生命線のことでしょう。

もしかすると「私」の生命線はたまたま長かったのかもしれないですよね。

しかし、生きることに罪悪感を抱いている「私」にとっては全くうれしくないのです。

そのうえ、そうして人生を悲観している自分にも嫌悪感を抱いています。

人生観を嘆く、というのはつまり自分の人生観にも悲嘆しているということでしょう。

だからこそ、生きることを否定するのです。

未来に絶望

消えてしまいたい生涯なんてもんにどんな値が付いて
自己中心的だって?思いの欠片も知らないで
どうせ向こう数十年経った先では煙たがれて
なら私を刺して殺して奪って去って

出典: あの世行きのバスに乗ってさらば。/作詞:ぷす 作曲:ぷす