ここでは、全く希望を持てない未来への思いが歌われています。
「消えてしまいたい」と願うのはもしかすると「死」よりも強い願いなのかもしれません。
自分の存在ごと抹消してしまいたい、という思いの裏返しです。
また、自己中心的と言われることに強い否定を表しています。
これは、自分の中で少し思い当たる節もあることを暗示しているのでしょう。
とはいえ、消えてしまいたい、という願いを否定されることには強く嫌悪を示しています。
その理由が「数十年後の自分」にあり、年老いたらきっと「私」は煙たがられると思っていることがわかります。
これは「私」の人生観や人物観の裏返しでもあります。
年老いた「自分」を拒絶しているのです。
これは若者特有の考え方なのかもしれません。
そんな彼女の最終的な結論は誰かに殺してほしい、というもの。
ある意味、芥川龍之介の「歯車」に似た部分があるでしょう。
自己肯定感は低め
理不尽と自己肯定
幼い頃 馬鹿にされたことも忘れきれず
身に覚えのない理不尽さが頭から離れてくれないんだ
今になって考えたら何故飲み込んだのか
歯向かえばよかった
出典: あの世行きのバスに乗ってさらば。/作詞:ぷす 作曲:ぷす
この歌詞には多くの人が共感する部分です。
ふと馬鹿にされたり、否定的な言葉をかけられても言い返すこともできなかった経験。
その経験が今になっても自己肯定観の低さにつながっている、という面です。
どうして歯向かえなかったのか、と自問自答する「私」。
過去に戻ることもできないのについ後悔してしまうことはよくありますよね。
そんな私の後悔は非常に根深く、消えてしまいたい、という思いの一因になっているのです。
その他大勢からの脱却
もやもやとした人混みの中を這って
存在価値を示すのよ
出典: あの世行きのバスに乗ってさらば。/作詞:ぷす 作曲:ぷす
「その他大勢」と自分を認識している人は多いでしょう。
特に思春期、クラスの中では一部の目立った人間以外は無個性な「その他」だと感じることがあるかもしれません。
「私」もそんな人間の一人。
しかし「私」はその中でもなんとか存在価値を示したいと考えています。
消えてしまいたいか存在価値か、という両極端の考え方です。
どうしても折り合いをつけられず、悩んでいるのが「私」なのです。
生を否定
幸せの否定
幸福論とか無駄に深いだけで
何の役にも立たないただの文字だよ
浅い心がパッとしない焦燥感に駆られているの
時だけが経って戻れないな
出典: あの世行きのバスに乗ってさらば。/作詞:ぷす 作曲:ぷす
幸福論を役に立たない、と言い放ってしまう「私」。
その裏側には、自分は不幸だという認識があります。
自己肯定観が低いまま、自分という存在を見失っている「私」だからこそ、幸福感がないのです。
そのため「幸せに前向きなもの」に対し攻撃的になってしまうのでしょう。
そんな「私」の幸せだったときは昔。
何も考えていなかった過去を懐かしむのです。
死を夢見る
消えてしまいたい生涯なんてもんにどんな芽が生えて
面倒くさい奴だって?お前の声とか要らないわ
どうせ向こう数十年経った先まで持ち越すだけ
なら私を刺して殺して奪って去って
出典: あの世行きのバスに乗ってさらば。/作詞:ぷす 作曲:ぷす
芽、とは何を暗喩しているのでしょうか?
ここでは自分が生きることで生まれる結果を意味すると考えられます。
消えたい、と思う自分の人生が何かをなせるとも思っていない「私」。
それを面倒だと思うのもまた「私」です。
自問自答の結果、やはり消えたいと思う私は死を夢見るのです。
それも、できれば楽な方法で。