夏の夜空に見上げた花火 痛いほど胸に焼き付いた
君は何度も背伸びをしながら 届きそうだねと笑ったね
出典: 花火/作詞:奥華子 作曲:奥華子
高校生活最後の夏休み、「ねえ、今度の花火大会一緒に行かない?」と少女に誘われた少年。
少年はどれほど嬉しかったことでしょう。
けれどそれが少女にばれてしまうのが恥ずかしくて、少年は少しそっけなく返事をしてしまいます。
花火大会、賑わう屋台やはしゃぐ子供たちの中で2人はしっかりと手を握っていました。
紺色の夜空に花火がひとつ、またひとつと咲くたびに少年の胸はなぜかギュッと締め付けられます。
少年には、隣でキラキラと笑う少女がなぜかとても遠くに感じました。
1行目の「痛い」とは、「愛おしすぎて、心が痛くなる。」ということでしょう。
少年は心から少女に恋をしていたのです。
少女の選択
君の涙も 僕の弱さも 同じ未来を信じていた 君は零れ落ちそうな思いを 夜空に隠してた
出典: 花火/作詞:奥華子 作曲:奥華子
少女は少年の手をキュッと握りしめます。
「高校を卒業したら、私この街を出るの。」少女はそう言って手を握ったまま、花火の咲く夜空を見上げました...。
少年は少し下を向き、小さく頷きます。
少年は、少女の涙が頬を伝うのを隣で感じながらも、その涙を拭ってあげることはできませんでした。
2人が信じた「同じ未来」とは何だったのでしょう?
きっとそれは、いつまでも2人一緒にいられること。
その未来は、少女の涙によって流れてしまい、少年の弱さによって夜空に閉じ込められてしまいました。
言葉を交わさず、ただ隣で空を見上げ、花火の音だけが心に響く。
2人はその時間だけがとても長く、永遠に感じました。
少女には夢があった。
だから街を出ることを決めたけれど、少年と離れ離れになるのは胸を引き裂かれる思いでした。
「ずっと一緒にいたい。」少女は一粒の涙と引き換えに、その溢れそうな想いをそっと胸の奥に隠したのです。
言えなかった言葉
少年はなぜ何も言えなかったのでしょう。
あれほど愛おしく、離れたくなかったのに...。
「大好き」だったのに...。
少女の夢を応援していたけれど、少年は本当は「行かないで」、「一緒に行くよ」と少女を抱きしめたかったはずです。
けれど、少年は怖くて言葉が出ませんでした。
ほんの少しの勇気、ただ一言、気持ちを素直に伝えることがこんなにも難しいなんて。
少年は、自分の「弱さ」が嫌になりました。
本当の気持ちをなかなか伝えられなくて、一歩踏み出せなくて、「あの時勇気を出していれば」と後悔してしまう。
自分の弱さにがっかりしたり、自分の選択を後悔したりすることは誰にでもあることです。
少年は初めて後悔の痛みを知りました。
第3話
別れと後悔
もっと優しくできたら 迷わずにいたら 遠くまで君を連れ出せたのかな
出典: 花火/作詞:奥華子 作曲:奥華子
この歌は初恋の甘酸っぱく切ない物語、そして解りやすく言えば、少年の少女に対する未練の歌です。
少女は自分の決断した道を歩むことを選び、2人は離れ離れになりました。
少年は、2人で歩いた通学路を1人歩きます。
一歩一歩進むたびに、少女との思い出が、少年の心を締め付ける。
想像していたよりもこんなにも辛く寂しいなんて、少年の心にはぽっかりと穴が空いてしまいました。
「会いたい。」誰もいない砂浜で、少年は1人涙を流します。
もしあの時迷わなかったら、今も少女の隣で笑っていられたかもしれません。けれど、少女はもう遠くに行ってしまいました。
少年は、どうすればよかったのでしょうか。
花火大会の夜、少年が少女を引き留めていたならば、2人は今も一緒にいられたでしょう。
けれど夢を諦めた少女にとって、それは幸せな未来ではないかもしれません。
少年は自分の気持ちを伝えられなかった。
でもきっとそれは、少女の夢を後押しする結果となるでしょう。
誰にも正解なんて分からないのです。
人はそれぞれ違った選択をし、時に報われ、時に後悔します。そうやって成長していくのです。
めぐる思い出
待ち合わせ 浴衣姿の君 照れくさくて何も言えなかった
出典: 花火/作詞:奥華子 作曲:奥華子
少年はずっと、1人海を眺めていました。
少年は少女との思い出をひとつずつ大切に思い出していきます。
花火大会の日、少女の浴衣姿は夜空の花火にも劣らず美しかった。
少年は熱くなる耳を必死に隠しながら、ただひたすらに少女の手を引きました。
「きれいだよ。」その一言が言えませんでした。
言ってあげればよかった。一途で純粋な少年はまたひとつ後悔しました。