貴方や周りの期待を受け止めて叶えようとする責任感が持てたなら
私の常識や考えを認めてくれますか?
彼女には様々な期待を、彼を含めて周囲の人が掛けていたのでしょう。
しかし、彼女は彼女なりの常識や考え方があり、それらを受け止められなかった。
そういったことを悔いての発言に取れます。
しかしこれは、彼と今まで散々してきたやりとりなのでしょう。
もう彼からすると聞く耳を持つこともなく、ただただ聞いているだけで返事もない。
返事をしない彼を見て、「あぁいつもと同じだ」と思っているのです。
自分の本質はもう変わらない
こういうやりとりをこれまで何度も繰り返してきたが、結局自分は変われなかった。
全てが今更で、もうどうすることもできない。
上で述べたこれらの言葉を口に出したのか、頭の中で巡らせただけなのかはわかりません。
ただ、彼女はもう限界でした。
『疲れた。』
遺書にも似た一言がそれを意味しています。
終始歪んだ音で綴る疑いと迷い
本当に自分でいいのかという疑い
天現寺発って今日は房総半島へ
助手席に埋まったあなたの生命
如何にでもしてなんて云うなら何でもしてあげたいけど
あたしなんかで良いの
出典: 入水願い/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
『目的地』である房総半島へと車を走らせます。
ハンドルを握るのは彼女であり、彼は助手席でただただ沈黙を貫いている。
彼女は運転しながら想いを巡らせます。
以前聞いた「どうにでもして」という彼の言葉は投げやりであれ、任せてもらえたことは素直に嬉しい。
だから、できることならなんでもしてあげようという思いから今車を走らせているのだが…
本当に貴方は、その相手が私でいいと思っているのか?
迷っているならいっそ死ぬのはやめにしないかという提案
あたしを殺して其れからちゃんと独りで死ねるのか
応えもしない子供の仮面を付けた鮮やかな瞳
もう一つの方 生きる方は如何
出典: 入水願い/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
疑いは益々膨らんでいきます。
手筈としては、彼が彼女を手に掛け、後を追うように彼が逝くというもの。
入水なので最後は揃って水に沈むのだとは思いますが、彼が本当にできるのかという猜疑心。
死ぬことが怖くなった、というわけではなく純粋な疑いでした。
彼が自ら命を断てないどころか、恐らく私を手に掛けることすらできないのではないか。
むしろ、私を手に掛けて自分だけは生き残るつもりなのではないか。
横顔からはその気持ちがわからないほどに純粋な表情。
その表情すらも嘘なのではないか。
それならばと提案したのが最後の一文。
死ぬことはやめて、2人で一緒に生きませんか?
その言葉とともに、目的地に着いてしまいました。
彼からの返答は無いままに。