彼の手付きで気付いた真実
海浜公園今日も月光に薄闇
助手席に照ったあなたの信号
コートの下を這っている両手は何にも掴めないでしょ
人違いじゃないかしら
出典: 入水願い/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
目的地である海浜公園に到着し、車を止めます。
到着直前にした提案の返答は無いまま、彼女の身体を求める彼。
その行動と心ない手付きを肌で感じたこの時、彼女は全てが嘘だったのだと確信しました。
理由は、上記の歌詞の2行目『助手席に照った…』のくだり。
入水目的ですから、人の少ない時間帯であることが想像できるので時間は深夜。
なので、助手席を照らしている信号は、点滅している赤信号であることがわかります。
赤信号。すなわちこの入水を叶える気がないという意味の比喩ですね。
赤という表現から、真っ赤な嘘という意味も掛かっているかもしれません。
なんにせよ、入水が叶わないどころか、そもそも彼の気持ちは自分に向いていなかったと気付いたのです。
貴方が今見ているのは私ではないですよね?
他にいる本当に好きな女性のことを考えていますよね?
現実に戻り、全てがどうでも良くなった瞬間でした。
全てを諦めた瞬間
大嫌いです
全部が厭です
賞讃したがっているあなたの嘘吐き
今夜以降こんな仕様も無い女が生き存らえるなんてあられもないわ!
出典: 入水願い/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
自分が愛されていなかったと確信し、想いを全て言葉でぶつけました。
心の中では下記のような状態だったはずです。
自分の選んだ、入水という選択を認めてここまで着いてきてくれた彼。
その想いを褒めてくれた彼。
でも全て嘘だった。
これから先、こんな自分が生きる理由なんて何一つない。
それでも彼は何も返答しないでしょう。
彼女が言った全てが真実なのですから。
愛を感じないままに身体を重ね、余韻の中で無情に過ぎる時間。
彼女はそのまま静かに口を開きます。
・・・どうぞ殺って
出典: 入水願い/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
ここまで全てを知った上で、なおも彼に命を委ねた理由。
それは、彼のことを彼女は今も愛しているからです。
これまでと同じように口では強がってみせたものの、やはり彼を嫌いになれなかった。
そしてそれを見透かしたように光る彼の鮮やかな瞳。
もう自分にはどうすることもできない。
彼を繋ぎとめることも、彼と生きることも、自分一人で生きることも出来ない。
だからせめて、彼の手で葬って欲しい。
そう願って耳元で囁いた、彼女の最後の言葉だったのです。
報われぬ恋の末路
恋というより一方通行の愛
曲としてはここで終わっています。
この先どうなったのか。
そのあたりは謎のままです。
しかし断言できることがあります。
それは、この2人は生きているということ。
入水しなかったのです。
一方的に彼を信じ、愛した彼女。
最後に裏切られたとはいえ、彼への愛は捨てられなかった。
それを見透かした彼は今後も付かず離れずの距離を保ち、彼女を苦しめ続けるでしょう。
しかし彼女にはそれが『生きる理由』になっているのです。
他に相手がいるにも関わらず、それでも自分のそばにいてくれる彼。
他に頼るところもなく、今の自分には彼しかいないのだから。
救いのない、報われない恋であり、一方的な愛情で締め括っています。