二人の恋は終わったのね
許してさえくれない貴方
サヨナラと顔も見ないで
去って行った男の心
出典: サン・トワ・マミー/作詞:ADAMO SARVATORE 岩谷時子 作曲:ADAMO SALVATORE
歌い出しからドラマが始まります。
とても非情な失恋ですね。
手痛い失恋にため息をつく女性の姿が浮かぶようです。
自分のもとを振り返りもせずに別れていった男性の心情が分からずに嘆きます。
それでもあまりべったりとした激情に至らないのは越路吹雪の歌唱力によるものです。
またシャンソンという音楽そのものの総体的な傾向かもしれません。
時代を越えてどこか洒脱なのに切ない雰囲気を上手に伝えています。
それにしてもこんなに愛している男性から手痛い振られ方をしたのはなぜでしょう。
岩谷時子さんの訳詞から少し想像してみます。
彼女が歩けば男たちが振り返り声を掛けてきます。
もちろん彼女も悪い気はしませんが、彼のことが大好きなので誘いに乗るようなことはありません。
ある日、街角で声を掛けられた彼女は「いつものこと」とうんざりしながらそちらを向きます。
すると昔一緒に楽しい時を過ごした元カレが立っていました。
今はお互い新しい恋人がいる2人でしたが、懐かしさもあり少し立ち話をしてしまいます。
そこを今の彼が見かけ誤解してしまったのです。
元カレとヨリを戻したと勘違いし怒った彼には何を言っても無駄でした。
そして彼は彼女を振り向くこともせず部屋を出て行ったのです。
失恋のときに視界が閉ざされる不思議
失恋したときに誰しもが経験すること
楽しい夢の様な
あの頃を思い出せば
サン・トワ・マミー
悲しくて目の前が暗くなる
サン・トワ・マミー
出典: サン・トワ・マミー/作詞:ADAMO SARVATORE 岩谷時子 作曲:ADAMO SALVATORE
交際していた時期が明るいものであればその分だけ失恋は深い痛手になる。
フラレてみてから以前を思い起こすととびきり哀しい想いになるのだと歌います。
失恋を経験した人ならば誰しもがうなずく場面です。
朗々とした歌唱が歌詞を暗くなりすぎないようにコントロールします。
暗くなり過ぎないように細心の注意を払いながらも、切ない心情を訴えるために越路吹雪は目を伏せます。
まっすぐに正面を向かず、歌い上げるために顎をあげても目線は少し伏せているのです。
レコードで聴くだけでは伝わらない小さなディティールを大切にした越路吹雪はやはりライブが身上の人でした。
悲しくて目の前が暗くなる
出典: サン・トワ・マミー/作詞:ADAMO SARVATORE 岩谷時子 作曲:ADAMO SALVATORE
本当に人間の視覚というものは不思議なものです。
つらいことがあると視覚情報が薄暗くなる経験、皆さんにもあるかと思います。
また、失恋したときなどは部屋を暗くしたりしたことなどもあるでしょう。
人生における嘘のない歌世界がこの曲の要です。
エディット・ピアフと越路吹雪
エディット・ピアフの偉大な影響力
シャンソンの魅力は人生そのものの悲哀や楽しみを歌いあげること。
聴く者のこころにしっかりと届く言葉たちを歌にすることです。
越路吹雪はフランスのシャンソンの女王・エディット・ピアフから実に多くのものを学んできました。
エディット・ピアフが体現したものを自分のものにしようと必死だった人生です。
エディット・ピアフを初めて観た時には「私は負けた」という想いを日記に寄せています。
日本人がまだ海外に自由に渡航できなかった時代です。
生でエディット・ピアフのショーを観られた事自体が奇跡でもあります。
エディット・ピアフとは
エディット・ピアフは今なおフランスで愛し続けられているシャンソン歌手です。
切ないバラードこそ彼女の良さが最も発揮されるジャンルといわれ「バラ色の人生」や「愛の賛歌」は有名です。
彼女のステージを観た越路吹雪はショックを受け、その夜は1人で泣いたと日記に書いています。
名曲「愛の賛歌」は岩谷時子さんの訳詞とは内容が大きく異なり、もっと強い女性の愛を歌っています。
彼女は47歳という若さで亡くなりますが、その死はフランス全土を悲しみで包みパリの街が静まり返ったそうです。
偉大な歌手ですね。
シャンソンの女王の実像とは
シャンソンの魅力や真髄についていつも考え抜いていた越路吹雪。
「サン・トワ・マミー」などはリサイタルなどで何千回も歌ってきた曲です。
それでも彼女は、毎回、手探りで歌詞を確かめるようにリハーサルを積んだというエピソードが遺されています。
シャンソンの女王の実像は修道女のように自分に厳しいものでした。
そんな彼女の想いを胸に「サン・トワ・マミー」の続きを見ていきますね。