ここでようやく、この儀式の意味が明かされています。
この楽曲がテーマにしているのは「ネットでの炎上」。確かに【火まつり】ですね。
これまで同様に「謎の儀式」のような雰囲気が続きますが、1行目はまさに炎上の様子を表現しているのです。
多くの場合、人々が加担する前段階ですでに火はあがっています。
この段階ではまだ焚火程度。ここまでの儀式準備の様子からも明らかですが、参加者も小人数なのです。
しかし歌詞にある時点ではすでに大きな火を囲んでいます。
少なくとも数十人が集まっておこなうキャンプファイヤーの規模です。
つまり小さくあがった火につられて多くの人が攻撃を繰り返し、次第に大炎上していく様を描いているということでしょう。
風が吹き抜ける地平線を探す
出典: 火まつり/作詞:長谷川カオナシ 作曲:長谷川カオナシ
最初に引用した歌詞に、こんなフレーズがありました。
風が強い日に火事が起こると、火は消えるどころか次々隣のものに燃え移っていく。
つまり最初は山の上でつけた小さな焚火が、地上に向かって吹く風と共に少しずつ燃え移って大火事になるイメージです。
まさにネットの炎上と同じ状態といえますね。
このフレーズと併せて考えれば、炎上のキッカケを作った人たちは最初からそれが周囲に飛び火することを望んでいたのでしょう。
次々と燃え移り、巨大な炎になることを狙って火をつけたことになります。
悪質なネット炎上の経緯が見えてきました。
顔のない奴らの正体
この楽曲が「ネットでの炎上」を歌っているなら、「顔のない」人たちが登場することも不思議ではありません。
ネットは基本的に匿名の世界。本名を明かしている人もいれば、年齢や性別まで大きく偽っている人もいます。
素性を明かしておらず実態がわからない、そんな匿名性の高い存在をこう表現しているのでしょう。
僕が混ざりたい理由
この楽曲には明確な語り手・主人公がいません。
つまりここで使われている、特定の誰かを指すような「僕」という言葉でさえも1人を指すものではないのです。
これは炎上に群がってきた奴ら、いわば野次馬のような人たちの総称でしょう。
彼らは最初の小さな火には食いつきません。
ある程度大きく燃えてきて、人が集まりだした頃にひょっこり姿を現します。
まさに「みんなでやれば怖くない」の精神で、知らない人が起こした火に便乗するだけ。
彼らが投げかける言葉に意味などありません。とりあえず同調して誰かを攻撃したいだけなのです。
もしくは多数派の中で大きい顔をしたいだけかもしれませんね。
結局はそういった「何も考えていない僕」たちが余計に炎を大きくしますが、彼らにその自覚はないでしょう。
それは歌詞にあるとおり呑気に踊っていることからも明らかです。
定期開催のおまつり
笛を吹くやつはもう居ない 残ったやつらも馬鹿ばかり
円の真ん中に山積みの亡骸 この次の生け贄は誰にする
出典: 火まつり/作詞:長谷川カオナシ 作曲:長谷川カオナシ
ここでは火が消え儀式が終了した後、つまり炎上がおさまった頃のことを描いています。
不可解なのは、この一件で燃やされたのが1人ではないこと。
最初に捧げた生け贄は、おそらく1人でした。しかしここではその頃より増えています。
これは「擁護した人が巻き込まれた」ことを意味するのではないでしょうか。
火を大きくする人たちは圧倒的多数ですが、時には叩かれている人を守る優しきヒーローがいます。
しかしどんなに勇敢ヒーローだって、その勇気だけでは大きすぎる相手に勝てっこありません。
結局はその大きな火に負けてしまう。だから亡骸が複数あったというわけです。
さらに怖いのは、多くの人がこうして多数の犠牲を出しておきながら火が消えた瞬間に興味を失うこと。
すでに新しい攻撃対象を探している様子も描かれています。
顔がないからこそできることでしょう。状況描写だけでも充分にその異常さ・恐ろしさが伝わってきます。
火まつりの結末とは
風が吹き抜ける星空に刺さる 僕も消えちまった かどわかしの噂
何もできやしない 口べらしは続く
出典: 火まつり/作詞:長谷川カオナシ 作曲:長谷川カオナシ
最後のフレーズです。
ここでも「僕」という一人称が登場していますが、おそらく多くの人達の想いを代弁する存在でしょう。
僕は周りの流れに乗って炎上の輪に加わった人。
しかし何を間違えたのか、知らぬ間に叩かれる側になっていたようです。
誰かを攻撃することで優位に立った気分になる、そんな大多数の僕にとっては屈辱的な出来事でしょう。
1度標的にされてしまえば、もはやなす術なし。2行目にある通り、黙り込むことしか自衛の策はありません。
だから消えたのです。つまりは炎上の輪からフェードアウトしたということ。
しかし冒頭の解説でも触れたとおり、誰か1人がいなくなったところで誰も気にしません。
誰かを攻撃できればいい人たちが抱く攻撃対象への興味は、とても薄っぺらいものなのです。
だから忘れてもらえるように。再燃しないように。
そんな気持ちと同時に、言いたいことが言えないもどかしさや虚しささえ感じられます。
最後に
ネット社会の闇ともいえる「炎上」。
これを彼ららしい独特の視点で描いた【火まつり】をご紹介しました。
最後にクリープハイプの関連記事をご紹介しましょう。
OTOKAKEでは、独自の世界観を持つ彼らの楽曲をたくさん解説しています。