中毒性アリー!のファニー・ヴォイス

中毒性アリー

ダメな天使ほど可愛いものです。

平成末のダダダなビートに乗せたナナヲアカリの声には間違いなく中毒性のイケナイものが入っています。

本人も自分の声が気に入っているようですが、マスコミのプロフィール的な言葉で言えばアニメヴォイス。

でもそんなカテゴライズの看板をひょいと倒してしまうような、蠱惑的なファニー・ヴォイスです。

対句、対語が類似した音韻でシーケンス

そんなナナヲアカリの声の魅力が1000%表現された楽曲「ドッペルアリー」の歌詞解説をしてみましよう。

作詞・作曲はともに「EVE・ナナヲアカリ」とクレジットされています。

歌詞全体を眺め渡すと対句、対語が類似した音韻でシーケンスし、意図的に同音語の表記を変えています。

この結果、言葉と対象の輪郭が曖昧になり、浮遊感に満ちた二重性を感じさせることに成功しています。

ドッペルって何?

分身、そして死の前兆ーードッペルゲンガー

歌詞解説にうつる前に、楽曲全体のモチーフとなっている「ドッペルゲンガー」について押さえておきましょう。

ドッペルゲンガー(独: Doppelgänger)とは、自分自身の姿を自分で見る幻覚の一種で、「自己像幻視」とも呼ばれる現象である[1][2]。自分とそっくりの姿をした分身[1]。第2の自我、生霊の類[3]。同じ人物が同時に別の場所(複数の場合もある)に姿を現す現象を指すこともある(第三者が目撃するのも含む)[2][4]。超常現象事典などでは超常現象のひとつとして扱われる[5][2]。

出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/ドッペルゲンガー

「生き写し、分身」という意味で使われます。

ゲームが好きな方なら魔法少女がかける分身の術を思い浮かべたことでしょう。

絶対にその時間その場所にいることが考えられない「全く同じ外見の存在」を指すような場合にも用いられます。

自身の姿を自分で目にする幻覚現象」という意味でのドッペルゲンガーもよく小説や映画で使われます。

ドイツの民間伝承に由来し、肉体から離脱した幽体や霊魂が実体化したものをドッペルゲンガーと呼びました。

自分のそれを見たものは遠からず死や災厄に見舞われると考えられていたようです。

奇怪な現象であり、「不吉」なものであることから、多くの恐怖小説、ゴシック小説などのモチーフとなりました。

日本では、芥川龍之介の著作『歯車』の中で効果的に用いられています。

『歯車』の中でのドッペルゲンガー

ナナヲアカリ「ドッペルアリー」ってどういう意味?歌詞を解説!嘘と本当…使い分けるのはイケナイこと?の画像

「僕」は知り合いの結婚披露宴に出席するため東京のホテルに向かう途中、レエン・コオト(レインコート)を着た幽霊の話を耳にする。(中略)レエン・コオトだけでなく、復讐の神、黄色いタクシー、黒と白、もぐらもち(もぐら)、翼(飛行機)、火事、赤光など、過去の罪の残像とも、死の予告とも知れないものが繰り返し現れることに、「僕」はおびえ、苦しみ、夜の東京の街を逃げ回るように彷徨する。

出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/歯車_(小説)

『歯車』のあらすじですが、「死の予告とも知れないもの」としてドッペルゲンガーが例示されています。

芥川龍之介の『歯車』は、死の少し前、かなり精神的にも不安定な時に書かれた小説です。

現実と幻視が交錯し、死の予感に満ちた重苦しい小説世界の中でこの用語が効果的に用いられています。

二重に存在し歩き行く者ーードッペルゲンガー

ドイツ語のdoppelは英語で言えばdouble(ダブル)

こう言えばかなり解りやすくなったのではないでしょうか。

この英語のdoubleから変化したのが日本語の「ダブる」です。

「このメガネをかけると像がダブって見えます」というように、「二重に見える、数える」ということを表します。

英語がこのように日本語化したようにドイツ語のdoppelも「ドッペる」と使われた時代もありました。

明治・大正時代の旧制高校の学生達には習いたてのドイツ語を得意げに隠語として使いました。

「ドッペる」は、同じ学年を二回繰り返す、つまり「留年する」、「落第する」という意味で使われていたのです。

Gängerは、ゲルマン語に由来するドイツ語で「歩いて行く人」を意味します。

このことから直訳的に言うとドッペルゲンガーとは「二重になって歩いて行く人」という意味になります。

MVの「ドッペルアリー」は爽快、そーかい

ちょっとずるそうな少年の笑顔、どのシーンにも現れている目のアイコン、ナイフ・・・。

心理的なメタファーが多く描かれた素敵なアニメーションです。

映像とビートとナナヲアカリの粘り着くような声の絡み具合いが絶妙な作品です。