ビートロックの完成形
シングルカットされなかった名曲
1988年12月10日、日本中のロックファンを驚かせるニュースが流れます。
前年のクリスマスイブに解散した人気ロックバンドBOØWYのギタリストだった布袋寅泰。
そんな2人がロックユニットを組むというニュースでした。
年号が昭和から平成に変わって間もない、1989年4月8日。
彼らは、COMPLEXというユニット名でデビューします。
シンプルなロックチューンのシングル「BE MY BABY」は大ヒット。
1989年4月26日にリリースされたアルバム「COMPLEX」も、ビッグセールスを記録しました。
収録された12曲は、キャッチーでメロディアスなものばかり。
どの曲がシングルカットされてもおかしくないほどのクオリティーです。
とりわけインパクトが強かったのは、ビートロックの完成形ともいえる「恋をとめないで」。
デジタルとロックの融合
「GUITARHYTHM」
大型ロックユニット結成のニュースが流れる2カ月前。
布袋寅泰は、初のソロアルバム「GUITARHYTHM」(ギタリズム)をリリースしています。
オープニングを飾ったのは、オーケストラのインストゥルメンタル曲。
その後に続いたナンバーは、すべて英詞のデジタルロックという斬新なものでした。
コンピューターを駆使したリズムは硬質で厚みがあり、最新のハウスミュージックそのもの。
そこに、布袋寅泰のギターとボーカルが加わったのが「GUITARHYTHM」でした。
デジタルとロックの融合という斬新な音楽性は、多くのリスナーに受け入れられました。
半面、ファンの間には、BOØWYを「再現」してくれるサウンドメイクを期待する声があったのも事実。
キャッチーでメロディアス、エモーショナルでメロウな心地よいビートロック。
人気絶頂の最中に解散したBOØWYのファンは、その残像を追うことをやめられずにいました。
バンドのサウンドメイクの大半を手掛けた布袋寅泰に、そんな期待を寄せるのも無理はなかったといえます。
しかし、「GUITARHITHM」には、BOØWYのような親しみやすさはありませんでした。
歌詞、サウンドともにバンド時代の踏襲を拒み、新しい音楽を創造するという志が込められたアルバム。
BOØWYを想像させる曲は、アルバム収録曲の候補から容赦なくふるい落とされました。
決してテクニカルではなかった布袋寅泰のボーカルを含め、歌謡曲的なキャッチーさは重視されなかったのです。
その最大の理由は、「海外進出を果たす」という壮大な目標でした。
キャッチーなデジタルロック
帰ってきたビートロック
「恋をとめないで」で印象的なのは、インパクト抜群のトリッキーなギターリフ。
イントロ、間奏、そしてサビでもリフレインされる、よく知られたリフです。
BOØWY時代から、アイデアに満ちた数多くのリフを奏でてきた布袋寅泰。
彼が全12曲のうち8曲を作曲した「COMPLEX」にも、あっと驚くリフが散りばめられています。
さらに、それらのサウンドに備わっていたのは、BOØWY時代を思わせるキャッチーさ。
「海外」を見据えていた「GUITARHYTHM」では重視されなかった、キャッチーなメロディーが帰ってきたのです。
「COMPLEX」のサウンドは、布袋寅泰が「GUITARHYTHM」で開拓したデジタルロックを踏襲したもの。
「スピード」「リフレイン」「メロディー」「コンピューター」「パンク」
「COMPLEX」は「GUITARHYTHM」のコンセプトだった5つの要素がすべて当てはまります。
「GUITARHYTHM」との違いは、吉川晃司が11曲を手掛けたポップな歌詞が存在したことでした。
ラブソングを中心としたストレートで分かりやすい歌詞は、サウンドのポピュラリティーをさらに高めることに。
1986年の4thアルバム「MODERN TIME」で、自作曲が目立つようになった吉川晃司。
アイドル歌手としてデビューした彼が、ロックアーティストとして認知されたのがCOMPLEXでした。
ボーカリストと並び立つギタリストという、元々のポジションに返り咲いた布袋寅泰。
布袋寅泰の個性的なサウンド、プレイと対等に渡り合う、吉川晃司の華やかなボーカル。
キーボードのホッピー神山、ドラムの池畑潤二、キーボードプログラミングの藤井丈司ら。
ツアーにも同行したレコーディングメンバーは、最強のビートをたたき出すミュージシャンばかり。
エンジニアのマイケル・ツィマリングは、BOØWYの3rdアルバム「BOØWY」制作に携わった人物です。
思わぬ形で、BOØWYを彷彿とさせる鮮やかなビートロックを展開したCOMPLEX。
BOØWYを慕うファンばかりではなく、新たなリスナーを獲得することにも成功したのです。
ストレートでパワフルな歌詞
極上のラブソング
夜のデイトは 危険すぎるからなんて
だからどうした お前の気持ちだろ
そのドアを力いっぱい 閉めれば済む事さ
いつまで少女で いる気なのさ
もう出掛ける時間だろ しっかりコロンたたいて
とびっきりの微笑みを みせてくれよ
出典: 恋をとめないで/作詞:吉川晃司 作曲:布袋寅泰
タイトルと同様、歌詞もストレートな「恋をとめないで」。
男性的な頼もしさや力強さに満ちた、吉川晃司らしいラブソングに仕上がっています。
「夜のデイト」という、ちょっぴりスリリングなシチュエーションに「お前」を誘い出す「俺」。
「そのドア」の向こうには、娘の行動に厳しく目を光らせる父親でもいるのでしょうか。
そんなイマジネーションを呼び起こす歌詞です。
「いつまで少女で いる気なのさ」
「もう出掛ける時間だろ」
ためらう背中を押すメッセージは、さらに続きます。