「パパ・ドント・プリーチ」で社会に問う
未婚の若い母という社会問題がテーマ
1986年、マドンナの通算3作目のアルバム「トゥルー・ブルー」。
このアルバムからの第1弾シングル「パパ・ドント・プリーチ」は社会に大きな問題を投げかけました。
マドンナは若い未婚の母という社会問題に真っ向から挑戦して、女性たちを応援する歌を創ります。
この曲で展開される物語は当時のアメリカの風土では時折遭遇するような身近な問題でした。
いつだって女性たちの権利を擁護するマドンナ。
フェミニズムとはまた違った新しい女性性の確立を力強く歌い上げます。
大変よくできたダンス・ポップスでこうした社会問題を採り上げるのは異例なことでした。
サビの「パパ・ドント・プリーチ」という歌詞とメロディがいつまでも耳に残ります。
良質な音楽で進歩的な歌詞を歌うマドンナの姿。
彼女の存在はソニック・ユースなどのUSオルタナティブ勢力にも好影響を与えました。
マドンナが新しい時代の女性性のアイコンだった季節の重要な楽曲です。
それでは実際の歌詞を見ていきましょう。
私はもう子どもじゃない
「愛が動機であることを全肯定する」マドンナ
Papa I know・・・
Papa I know you're going to be upset
'Cause I was always your little girl
But you should know by now
I'm not a baby
出典: パパ・ドント・プリーチ/作詞:Brian Elliot Madonna 作曲:Brian Elliot Madonna
歌い出しです。
いつでも親にとって娘は大事な子どもなのですが。
歌詞を和訳して解説いたします。
「パパ、私は分かっているの
パパ、あなたを困らせているのを私はよく分かっているわ
なぜって私はいつだってあなたの可愛い小さな娘ですもの
でも今こそ知ってほしいの
私はもう子どもじゃないってことを」
この曲の主人公は未婚の母です。
すでに赤ちゃんがいる身ですが、冒頭ではまだ明らかにされません。
そのことで本人はもとより親御さんを悩ませることになります。
父親にとって主人公はまだまだ可愛い娘です。
しかし子どもである主人公は成長を遂げて母になります。
本来ならば孫の誕生は父親にとっても喜ぶべきことでしょう。
しかしこの主人公はまだ結婚していない若い母親なのです。
アメリカでは当時、若い未婚の母が社会問題になっていました。
マドンナはこの問題に真っ向から挑みます。
どのようにこの問題を描いたのかは後の歌詞を見てください。
最初に強調しておきたいことはマドンナが「愛が動機であることを全肯定する」思想の持ち主だということです。
そのために女性の社会的地位の向上を目指して活動するフェミニズム運動とは少し違う側面があります。
フェミニストにとってはマドンナのように女性性を売り物にする姿勢は受け入れられないかもしれません。
マドンナは愛を全肯定することで副次的に女性性への讃歌を歌い上げるアーティストです。
ときに両者の利害が一致したかと思えば、齟齬が生まれることもあります。
複雑な問題ですがとても大事な点ですので予めご承知おきください。
若いからこそ陥った境遇
父親の助力が必要なのに
You always taught me right from wrong
I need your help daddy please be strong
I may be young at heart
But I know what I'm saying
出典: パパ・ドント・プリーチ/作詞:Brian Elliot Madonna 作曲:Brian Elliot Madonna
父娘の絆に深く想いをいたします。
「パパはいつだって私に善悪の区別を教えてくれたわね
私はあなたの助力が必要なの パパお願い強くなって
私は精神的に未熟かもしれない
でも自分が何を言っているのかは分かっているのよ」
若い未婚の母にとって両親のサポートは絶対に必要なものです。
しっかりと段階を踏まずに子どもを産んでしまうことは本人の幼さがもたらした出来事でしょう。
未婚の母になってしまう理由はそれこそ様々ありますので、すべてを一概に語ることはできません。
しかしこの「パパ・ドント・プリーチ」のケースでは主人公とそのパートナーの若さが描かれます。
それでもマドンナは主人公になりきって歌を歌い上げるのです。
父親の深い戸惑いとふつふつと沸き立つ怒りの感情。
これは実際に彼の立場にならないと分からないものでしょう。
しかし娘に常に善悪の区別を教えてきたのはこの父親です。
自分が何をなすべきなのかを知っているはずだと娘は期待しました。
確かに未熟さはうかがえる女性です。
しかし子どもを産むということが悪いことと見做されたら人類史を否定することにもなりかねません。
父親がそのことに気付いて孫の誕生を喜んでくれたならばいいのですが事情はもっと複雑なのです。
若いカップルの愛の顛末
家庭内教育に背いた結果
The one you warned me all about
The one you said I could do without
We're in an awful mess
And I don't mean maybe please
出典: パパ・ドント・プリーチ/作詞:Brian Elliot Madonna 作曲:Brian Elliot Madonna
必要な教育は家庭の中で行われていたようです。
「パパが私に警告してくれたこと
私はその言いつけに背いてしまったの
私たちふたりとも困惑しているの
本気でいっているのよ」
父親はきちんと物事の成り立ちなどについてきちんと教育していました。
しかし主人公は若さゆえにその言いつけを無視してしまいます。
これでは「パパ・ドント・プリーチ」というのは虫がいいような気もするでしょう。
しかし大事なことはこの一連の出来事が新しい生命に関する問題だということです。
どんな事柄よりも赤ちゃんのことが優先されなくてはいけません。
背徳的な行為の結果であっても、生まれくる新しい生命には何の罪もないのです。
この時点で主人公には若いながらも母としての自覚が芽生えています。
だからこそ必死に大切な問題の在り処について父親に気付いて欲しいと願っているのです。
私たちというのはこの曲では主人公とそのパートナーのふたりを指します。
妊娠とともにパートナーが去ってゆくケースもあるようですが、この曲ではそうした事情はありません。