その細く長い指に まとわりつく不安の影を抱きしめたい
My love, 刹那に身を焦がして
目覚める明日がいつまで続くのかと
問いかける Nightingale
出典: 真夜中のナイチンゲール/作詞:竹内まりや 作曲:竹内まりや
ここからバックコーラスが入って山下達郎の声が聴こえてきます。
竹内まりやの曲ではもうお馴染みですが、やっぱりホッとするのは効果的に使われているからでしょう。
指の描写からは繊細で傷つきやすい心が想像できそうです。
何かに情熱を注いでいるというよりは心を削られているような彼の姿は彼女の母性本能にも火を付けます。
弱いものを守ってあげたいという母親のような慈愛の心も芽生えているようです。
彼女は燃え尽きそうな彼の心をナイチンゲールの鳴き声を借りて少しでも癒そうとしているのです。
本当は自分自身も孤独なはずなのに愛する人を少しでも助けてあげたいという優しさが切ないですね。
竹内まりやの曲には英語がよく登場しますが、いつも自然に溶け込んでいて違和感がありません。
それは彼女が持っている知的な雰囲気とも関係があるような気がします。
デビュー当時は慶応大学出身のお嬢様歌手みたいな扱いをされていたところがありました。
曲はヒットしましたが、アイドル的な売り方をされたことに悩んでその後一時休養することになったのです。
しかし育ちの良さや知性というのは本人が意識しなくてもにじみ出てくるものだと思います。
歌詞の中に英語が出てきても自然で嫌味がないのはそういうことなのではないでしょうか。
淋しそうな微笑み
彼女の想いに共鳴する歌声
何かに追われるように 行き急ぐ理由を聞かせて
ふいに見せる微笑みが どこまでも淋しいのはなぜ
My love, ふたり同じ道 my love, 歩けなくていい
でも地の果てでもう一度 めぐり逢う約束を交わして
出典: 真夜中のナイチンゲール/作詞:竹内まりや 作曲:竹内まりや
自分は彼とふたりでゆっくり静かな時間を過ごしたいのに、何かに急き立てられているような彼は違います。
同じような経験をしたことがある人がいるかもしれません。
いつも仕事が忙しかったり何かに夢中になったりで自分との時間を持とうとしてくれない。
一緒にいても時々哀しそうな目をして何か悩みがありそうなのに自分には黙っている。
微笑んでいる彼は幸せそうに見えないのです。
好きな人の心がここではない遠くにあるように感じるのはどんなに辛いでしょう。
彼はいつもどこかに哀しみを湛えた人なのでしょうね。
そんな彼だからこそ好きになってしまったのだと思います。
繊細で影のある男性を好きになる女性はきっと繊細で優しい心を持っているのでしょう。
いつか遠いところでもう一度逢えたらと願う彼女の想いが切なく響きます。
ここでも最後の行で一瞬だけ切なく響く竹内まりやの歌声が彼女の想いに共鳴しているようです。
2度目の聴きどころはより深く心に刺さります。
暗闇の中で彼のために
声が涸れるまで歌い続ける?
このひとときだけのために すべてを失うことさえいとわないの
My love, 深い闇の向こうに
見えるひとすじの光をたどりながら
歌うのよ Nightingale
出典: 真夜中のナイチンゲール/作詞:竹内まりや 作曲:竹内まりや
2度めのサビのパートでは彼のためにひたすら尽くそうとする切ない恋心が描かれています。
今この時だけ、ほんの短い”刹那”であっても彼だけのために尽くしたいという気持ちです。
自分を犠牲にしてでもという痛々しささえ感じる想いがナイチンゲールの鳴き声となって夜の闇に響くのです。
哀しみに沈む暗闇を照らす歌声は彼の心に届いたのでしょうか。
先の見えない何処へ行けばよいのかも分からない真っ暗闇にかすかに聞こえる美しい鳥のさえずり。
彼女に見えている光は彼にも見えているのでしょうか。
彼のために彼女はひたすら歌い続けます。
ナイチンゲールのさえずりは彼に寄り添う彼女の心の奥から生まれる優しい歌声です。
彼のために彼女は声が涸れるまで歌い続けるのかもしれません。
ほんのわずかに見える希望を美しいコーラスが勇気づけるかのようです。
続いて入るエレキギターの間奏はカーペンターズの名曲「愛にさよならを」のギターソロの音によく似ています。
女性がボーカルで男性がコーラスというスタイルは、まりや&達郎のコンビと同じです。
数々の名曲を生み出したカーペンターズを、たぶんふたりとも好きなのだろうと思います。
偉大な兄妹デュオに敬意を表してこういうアレンジにしたのかもしれませんね。
役目を果たしたサヨナキドリ
彼女の深い愛が伝わる名曲
My love, 響き渡る遠雷が
新しい春を告げたら 飛び立ってく
真夜中の Nightingale
いつかきっと また会える Nightingale
Woo my love, 'cause I'm your little bird
出典: 真夜中のナイチンゲール/作詞:竹内まりや 作曲:竹内まりや
ここで転調して音程が少し上がります。
転調することで暗く哀しい世界に明るい光が差すような効果があるのです。
暖かい春の訪れは暗闇の向こうに少しだけ見えていた希望の光だったのでしょう。
ただ季節が巡って渡り鳥が去っていくように、彼のために歌い続けたナイチンゲールにも去る時がきたようです。
彼女が呼び寄せたのは明るく希望に満ちた季節ですが、春の兆しの遠雷は別れの時を告げる合図でした。
彼を励ますために鳴き続けたサヨナキドリは自分の役目を果たしたのです。
季節を越えて渡り鳥が戻ってくるように彼女もまた彼の元へ戻ってくるのかもしれません。
いつかもう一度逢いたいという願いは彼に届いたのでしょうか。
”真夜中”とタイトルに付けたことで彼の抱える哀しみや孤独が伝わってきます。
そして彼のために歌い続けた彼女の深い愛も伝わってくる名曲が「真夜中のナイチンゲール」なのです。