名盤「STRAY SHEEP」を締め括るナンバー

コロナ禍の中で制作された「回答」

米津玄師アルバムSTRAY SHEEP」。

その収録曲の中でも最後を締め括るナンバーが「カナリヤ」です。

2020年は世界中が新型コロナウイルスによる変化を余儀なくされた一年でした。

そんな中制作されたアルバム「STRAY SHEEP」。

緊急事態宣言の中制作されたこのアルバムは、米津にとって音楽で時勢と向き合う一作となりました。

変わっていく世界の中で音楽に何ができるのか

その問題と向かい合い、米津が作り出した一曲。

それは優しくあたたかい、変化を受け入れる音楽となりました。

心を揺さぶる是枝裕和監督のMV

「STRAY SHEEP」リリース後、「カナリヤ」はYouTubeMVが公開されました。

映画監督の是枝裕和監督によるMVは、米津自身も出演するショートムービーのような一作。

コロナ禍を思わせる世界で、大切な人との日々を過ごす人々の姿。

分断と、その中でも消えない人と人の絆を描いた美しいショートフィルムです。

是枝監督と米津玄師による対談もYouTubeで公開されています。

互いの作品にリスペクトを抱く対談もぜひご覧ください。

そんな2020年だからこそ生まれた「カナリヤ」。

変わりゆくものを大切に描く一曲を、歌詞から読み解いていきます。

ありふれた日々の愛しさ

くすぶる夜に思い出す日々

ありふれた毎日が 懐かしくなるほど
くすぶり沈む夜に揺れる
花を見つめていた
人いきれの中を あなたと歩いたこと
振り向きざまに笑う顔を
何故か思い出した

出典: カナリヤ/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

ありふれた毎日を懐かしいと感じる日々。

かつて当たり前だったことが、今は当たり前ではなくなってしまったことが感じられる一節です。

くすぶるという表現からは行動に移せないもどかしさが感じられます。

夜の中に揺れる花は、苦しい状況にある日々を象徴しているよう。

かつてはたくさんの人が行き来していた町。

人いきれという言葉からはそんな風景が浮かんできます。

その中をはぐれないように歩く二人。

少し先を歩いていたあなたがわたしを振り返り笑う。

そんな何気ない幸せに満ちていた風景が描き出されます。

新型コロナウイルスが世界的に流行した2020年。

感染の拡大を防ぐため、人が集まる場所やイベントは多くが中止されました。

そんな2020年、人が集まる風景は失われてしまった懐かしいもの。

過去には何とも思わなかった風景が、失われてはじめて懐かしく思う

そんな思いが描き出されている一節です。

カナリヤが歌う春の記憶

カナリヤが鳴きだす四月の末の 誰もが忘れていく白いプロムナード
あなたの指先が震えていることを 覚えていたいと思う

出典: カナリヤ/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

プロムナードは散歩道や遊歩道を意味する言葉。

四月の末、春の盛りのあたたかい日々。

誰もが忘れてしまうようなありふれた日常の光景を思い起こします。

そんなありふれた風景の中、あなたの指が震えている。

二人にとって重要なひとつの場面だったのでしょう。

それは愛の告白だったのでしょうか。

あるいは大きな決断や苦しい選択の必要な出来事だったのかもしれません。

どちらにせよそれはほとんどの人にとって何気ない日常の中で起こったことでした。

それを忘れないでいたいと心に刻み付けたわたし。

ここではカナリヤが鳴き始めていることに注目します。

美しい鳴き声の小鳥がさえずり始める情景。

それは美しく幸せな日々の始まりを感じさせるものです。

元には戻れないとしてもあなたと

いいよ あなたとなら いいよ
二度とこの場所には帰れないとしても
あなたとなら いいよ
歩いていこう 最後まで

出典: カナリヤ/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

二度と帰れないかもしれない場所。

それは2020年、あらゆるものが変わってしまった世の中とも重なります。

コロナ禍以降、以前の生活には戻れないかもしれない

以前のように気軽に人と会う毎日はもう戻ってこないかもしれない、という意見も多く聞かれます。

それでも、あなたがいればいい

変化も受け入れて最後まで歩いて行く。

そんな決意が感じられます。

変わる前の日々を大切に愛おしく思う。

そして変化していく日々も同じように大切にしていきたい。

あなたとならそう生きていられると変化を受け止める強さとあなたへの愛情が感じられます。