「暖簾」を潜った先には何が待っているのか
男の未練がましくも、意地らしさが印象的な楽曲です。
今回は男女の関係における喜怒哀楽が見え隠れする、「暖簾」をご紹介いたします。
1989年9月にリリースされてから1年間は新曲を出さず、「暖簾」1本で勝負したのです。
作詞・作曲は初めてパートナーを組む、永井龍雲氏。
同氏はフォークシンガーで、自らも歌い活躍されています。
40代になった五木ひろしは、かねてから新しいことにも挑戦したいと考えていました。
とあるインタビューで、「時代は流行りの歌で溢れている、それを歌うことが大事だ」と語っていました。
演歌に固執するのではなく、多様なジャンルの音楽と交流を深めていくのです。
永井龍雲氏の楽曲を迎え入れたのも頷けます。
「暖簾」からみる男の喜怒哀楽
作詞・作曲をした永井龍雲氏は、とあるインタビューで「暖簾」の制作秘話を語っていました。
楽曲の制作前に、「当時結婚を考えていた女性に失恋し、その辛い心情を楽曲にした」 のだそうです。
それを耳にした五木ひろしは、「真に迫り心を打つものがある」と後に語っています。
制作秘話を汲みとり、その心情になりきり歌い上げているのでしょう。
大人の男女の恋愛を歌い上げる五木ひろし
男の未練から色気が感じる「暖簾」を余すところなく徹底解釈!
心に開いた穴
心にポツンと
寂しさの明りが灯る
やさしい人に逢いたい こんな夜には
温たかな言葉に ふれたい
出典: 暖簾/作詞:永井龍雲 作曲:永井龍雲
寂しく、どこか孤独感が漂う情景が思い浮かんできます。
これまで、隙間すら開いたことがなかった心に穴が開いてしまうのです。
感じたことのない経験が、次第に焦りへと変わっていきます。
心にある孤独という部屋に、小さな灯が点いてしまうのです。
やりきれず動揺を隠せない主人公。
ともすれば、現実を受け入れられず冷静さを失っているのかもしれません。
いつも当たりまえのように寄り添ってくれた、「あなた」を想い起こしているのでしょう。
一緒に居ることが空気のように自然であったため、いざ離れてしまうとより恋しくなるのです。
あの日々の安らぎをもう一度探し求めます。
明かりを道しるべに、手探りで闇のような夜を彷徨いはじめるのです。
温かかったあなたにどうしても逢いたい。
言葉を交わさなくとも、とにかく逢えさえすればよいのでしょう。
主人公の心情が滲み出ています。
小さく開いた穴を塞ごうと、当てもなく彷徨うのです。
昇天する記憶...
暖簾を潜って
立ち上る湯気の行方にも
ささやかな人生謳うものがある
明日を信じて生きたい
出典: 暖簾/作詞:永井龍雲 作曲:永井龍雲
彷徨いながらも意志とは反して自ずと足は動き、どこかへ辿りつきます。
行きつけの居酒屋でしょうか。もしくは、何度も誰かと訪れたところなのでしょうか。
おそらく季節は冬だと考察します。深々と雪が降っているのかもしれません。
心に孤独の明かりが灯るとともに、昔よく来た赤提灯の明かりへと吸い込まれていったのでしょう。
2度と戻ってはこないあの頃の幸せな日々。
想い出や記憶が、昇る湯煙と相まり絡まります。
フワッと蒸発するように消え去っていくのです。
質素でも、それもまた生き方だといっています。
分相応に生きてさえいれば、不幸になることはないのです。
主人公は過去の人生を悔い改めようとしているのでしょう。
自分の犯した過ちを振り返り、もう繰り返すまいと決心します。