2012年「白日」
この時から一貫して祈りを捧げ続けています。
渡しそびれたさよならは
誰に運んでもらえばいい?
交わしかけの約束は
だれと果したらいい?
そもそもこの声はさ
ねぇ どこへ向かって歌えばいい?
出典: 白日/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
震災から1年。喪失はまだ生傷のままで、大切な人との突然の別れに苦しんでいます。
2013年「ブリキ」
ひとつひとつと思い出がふっていく
割れぬようにどれも手を伸ばしていく
手に落ちる度に焼けそうに痛むけど
これが僕らがこれから育てるはずだった
思い出の身代わりなの
出典: ブリキ/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
思い出の日々に蓋をした「空窓」とは対照的に、思い出を決して忘れようとしない曲です。
どの思い出もすべて、震災の後には辛い思い出に変わっています。
それでもあなたとの全てを覚えているために、「僕」は過去を振り返り続けるのです。
2014年「カイコ」
「空窓」と同じく3月11日の空です。しかし曲の雰囲気は全く違います。
このとき野田洋次郎は怒りに震えていたのです。
義援金は底を付き、仮設住宅に住まう人々は生活保護を受給せざるを得なくなりました。
急増する生活保護受給者を減らす対策に国が乗り出そうとしていたのです。
世界は疲れたってあとはもう壊れるだけ
親が子を殺める時の作法をお目に入れてあげましょう
1日くらいはあったかな
この世の誰一人泣かなかった日は
1日くらいはあったかな
この世の誰一人叫ばなかった日は
すべてのものに神は等しくあらせるのだとあなたの首元にぎゅっと手が回る
出典: カイコ/作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
国と国民の関係を「親と子」や「神と人間」に例えているようです。
この曲は他の曲に比べてかなり悲観的で、絶望と怒りの中に彼がいたことを示すようです。
タイトルの「カイコ」はシルクを作るための家畜として品種改良された虫(ガ)で、漢字では「蚕」と書きます。
天に虫と書いて蚕、神に作られたとされる我々人間の例えでしょう。
また蚕は野生で生きていけないことも知られていて、羽は生えているけれど飛ぶこともできず、人間が世話をしなければ餓死してしまいます。
神と子の関係のようでもあり、生活保護のお金を渡す国と被災者の関係のようにも感じさせられます。
2015年「あいとわ」
美しいピアノの旋律はストリングスと絡み合い展開していきます。
衝撃的な現実と日常が対比されています。
冗談みたいな悲劇 絆創膏だらけのメモリー
ありえない顔で明日は僕らを見るけど
それでも僕ら手を握ろう
次の息を 吸い込もう
原発が吹き飛ぼうとも 少年が自爆しようとも
その横で僕ら愛を語り合う
出典: あいとわ / 作詞:野田洋次郎 作曲:野田洋次郎
とてつもない悲劇を経験して、思い出もみんな苦い味に染まってしまったけど…
世界では悲しいことが起こり続けているけど…
それでも前を向いて、次のステップに進んでいこう。
2015年、ようやく前へと向かっていく曲を書けるほどに時が流れたのです。