自身初のクリスマスソング
静寂の山々が白いドレスをまといだす頃、きらびやかに着飾った街は浮かれ出す。
聴き慣れた曲たちが喧そうを彩り、木々は幻想的な光を放つ。
行き交う人々。
寒空に浮かぶ白い息に、虹色の想い。
1年にたった1日。それだけに、人は特別な感情をこの日に込めます。
色んな想いが交錯するのが「クリスマス」。
幾多の音楽家もその想いを演出しようと、数々の名曲を残しています。
日本を代表するアーティスト宇多田ヒカルさんもまた、そのひとり。
「SINGLE COLLECTION VOL.2」に収録
「Can't Wait 'Til Christmas」が収録されたのが、2010年に発売された『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2』。
有名飲料CMのクリスマスソングに起用されていたので、耳にされた人も多いかもしれません。
楽曲では、綺麗なピアノの旋律と切ないメロディーの中で恋人への想いを紡いでいきます。
優しくにじみ出る儚さがすごく印象的な、クリスマスにぴったりの1曲です。
宇多田サンタからのプレゼント
実はこの曲、ファンの皆さんに向けて制作されたもの。
以前、初のクリスマスソングについて聞かれた宇多田さんはこう答えています。
「こういうタイプの曲は、曲を待ってくれているファンの存在があるからこそ出てくる。」
「今回の楽曲はその最たるもの。だからそういうことを何かやりたいと思った。」
つまり、宇多田サンタから感謝とメッセージが詰まったクリスマスプレゼント。
では、「この想いよ、届け」とこの楽曲に込めたメッセージとは?
歌詞から紐解いてみたいと思います。
Can't Wait 'Til Christmas
1番恥ずかしい曲
「新曲のうちで一番自分で恥ずかしい感じの曲」
この曲の感想をこう答えた宇多田さん。
それはなぜなのか?もしかしたら、体験談?
そう考えると、恋愛中の宇多田さんの心境が歌詞に綴られているのかもしれません。
天才アーティストの揺れ動く恋心に触れられる機会はそうあるもんじゃないですからね。
早速、見ていきましょう。
クリスマスなんて…
クリスマスまで待たせないで
いたずらに時が過ぎてゆく
なんでもない日も側にいたいの
I'm already ah loving you
出典: Can't Wait 'Til Christmas/作詞:Utada Hikaru 作曲:Utada Hikaru
この曲で主人公となるのが、「私」。
もうひとりの登場人物が「君」です。舞台は「クリスマスまであとわずか」。
”クリスマスまで待たせないで”
冒頭から登場するこのフレーズ、曲中の転換点となる部分に3回顔を出すんですね。
なぜならこの1文には、歌詞における重要な役割が与えられているから。
それが、ふたりの距離の表現。
このたった13文字の歌詞が、曲のトーンとふたりの関係性を表現していきます。
1回目の登場が上記引用歌詞の部分。
クリスマスソングと銘打っていますが、実はクリスマスなんてどーでもいいんです。
この「わたし」にとって。
なぜならば、”I'm already loving you(もう私はあなたに恋している)”から。
だから気づいてよ、わたしの想いに。そう「あなた」への想いを唄っています。
特別なクリスマスだから…
クリスマスまで待たせないで
街中が君に恋してる
かっこつけないでよ私の前では
I'm already ah loving you
出典: Can't Wait 'Til Christmas/作詞:Utada Hikaru 作曲:Utada Hikaru
”クリスマスまで待たせないで”が2回目の登場を果たすこの場面。
ふたりの想いがすれ違っているのがうかがい知れます。
これは「君」そして「私」両方に言えることなのですが…
ついつい人間は、相手によく見られたいと思ってしまうものです。
本当は、格好悪いところすらもさらけ出せる関係が理想的なのですが、その一歩が踏み出せない。
嫌われることが怖いから。
だから、背伸びした理想の自分を演じたりするんですよね。
ほんと足つるくらい背伸びするわけです。
ほんと言いたいことも言えないこんな世の中になるわけです。
とはいえ、曲中に登場するこの「君」。
もしかしてなかなかのプレイボーイなのかもしれません。街中が恋。
規格外。実にうらやましい。来世に期待。