5人体制後初のアルバム『23区』

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bonobosが2015年に現在の5人体制になってから初めてリリースされたフルアルバム『23区』。

アルバムタイトルからも想像できますが、”東京”がモチーフになっているようです。

新たに3人がバンドメンバーに加入したわけですが、元々サポートなどで関わりのあった人物ということで、違和感なく、すぐにバンドとしては馴染んでいったようです。

『23区』から感じるリラックスした空気からも、察することができますね。

反面、15年以上のキャリアをもつbonobosですが、メンバーチェンジを行ったことによって新しい空気が取り込まれ、刺激となった面もあったのでしょう。

リラックスした空気の陰から、バンド感が見え隠れしています。今までのbonobosではあまり感じることのできなかった要素ではないでしょうか。

彼らのキャリアや年齢のせいでしょうか、わざとらしい、前面にアピールする一体感ではなく、さりげなく、肩ひじ張らずにまとまっている、穏やかな空気感です。

従来のbonobosらしさは失わず、それでいて一歩新しい道に進んだような、そんな印象を与えるアルバムです。

大人の雰囲気のMV

青く光るスカイツリー

今回ご紹介する曲「Cruisin'Cruisin'」は、アルバム『23区』の3曲目に収録されています。

心地よい洗練された都会の音楽とでもいいましょうか、なんとも言えないムードにあふれた曲となっていますね。

MVも、東京の夜景が映し出されていますが、スカイツリーが鈍く青く光り、街並みは抑えた灯りで表現されています。

よく東京の夜景といえばイメージされるような、宝石箱をひっくり返したようなにぎやかでカラフルな夜景ではない、渋めの、言ってみれば大人の夜景といった雰囲気でしょうか。

その抑えた夜景に、bonobosの奏でる音楽が煌めいている、そんな素敵な世界観のMVです。

ゆっくりとご覧になってください。

「Cruisin'Cruisin'」歌詞の世界

それでは、ここからは「Cruisin'Cruisin'」の歌詞を見ていきましょう。

二人だけの世界

Cruising Cruising, Baby. I'm watching over you.
蜜色の肌 ねがえりうつ神様
Cruising through the night time. I'm watching over you.
この夜、あるいは魔法 いつだって愛は可能

柔らかな熱を放つ足の裏から 夏草の香り
踊り歌い遊べ 毎日の発光体
いま惑星の夜半球にぼくらだけの舟を漕ぎ出す時
安心の海で眠りな、g'night, g'night, おやすみ

出典: Cruisin'Cruisin'/作詞:蔡忠浩 作曲:蔡忠浩

夜の世界をクルーズします。2人だけの船に乗って。

蜜色に輝く神様のように神々しい彼女から、目を離すことができません。

そう、彼女はまるで神様のような存在なのです。

夜の間中、二人だけで彷徨います。

まるで魔法のように、この素敵なナイトクルーズはいつまでだって続くのです。

二人の望む限り。

愛は、なんだって可能にします。魔法なんて、当然お手の物。

毎日の発行体=太陽のもとで、朗らかに存分に楽しみます。

足が火照ってしまうくらい、踊って、人生を謳歌します。

そうして踊り疲れたら。

二人しか乗せることのない船で、夜の海へ漕ぎだします。

荒れることのない、永久に穏やかな愛に満たされた海で、優しく揺られながら、眠りにつくのです。

戦い疲れた彼らの元にも……

透けた葉脈に指をすべらす 静寂のフリーケンシー
戦時下の夜のトポロジー 毎日の発光体
いま惑星の夜半球にきみだけの舟を進める時
安心の国で暮らしな、g'night, g'night, おやすみ

解き放たれるこの夜の魔法
夢見る微笑みに降り積もれ
最高純度のいまを打つ鼓動
うつくしい命が煌めく

出典: Cruisin'Cruisin'/作詞:蔡忠浩 作曲:蔡忠浩

植物の葉から、葉脈だけを取り出したものは繊細で美しいけれど、少し触れただけでも壊れてしまう脆さと儚さも持っています。

人は銃や武器のなどの武力の下においては、そんな風に弱く儚い存在と化してしまいます。

まるで葉脈が、静寂がもたらすかすかな周波数にもその身を震わせるかのように。

ここにおいての毎日の発光体は、太陽ではなく、戦時中の夜の闇を照らし出す爆弾や照明弾などではないでしょうか。

毎日が戦い、心を休めるところなど、どこにもなく。

常に命の危険にさらされて、極限状態の毎日。

わずかな時間、眠りについているときだけが、その現実から離れて安心できる時なのでしょう。

彼らに優しい眠りの世界を授けるべく、夜は訪れます。

その世界では恐ろしい戦争はなく、彼らは笑っていられます。無邪気なままで。

生きている歓びを実感できるような、笑顔にあふれた世界。

そこでは、本来の命の輝きを、何もかもが放っています。きらきらと美しく。

きっと大丈夫

開け放たれた窓から見る夜光
天体が描く完璧な文様
最高純度のいまを打つ鼓動
うつくしい魂よ

この夜空を飛び爆ぜる火花
心臓刺すナイフのよな言葉の雨
濡れた頬をそっと吹く夜風
きっと大丈夫
今は さあおやすみ

出典: Cruisin'Cruisin'/作詞:蔡忠浩 作曲:蔡忠浩

私たちの今目にしている、東京の明るい夜景。

その遥か上空には、太古からやってきた光が瞬いています。

何万年、何千年前に発された光が、今私たちのもとに星の輝きとして届いているのです。

人間の想像も及ばない壮大な時の流れ。悠久の営み。

その営みの元では、人間の思惑など、ほんの小さなものです。

全ては、そうした偉大なものに生かされているのです。私たち人間も。

皆、同じうつくしい魂をもって。

悲惨な戦場で毎日生死の狭間に否応なく立たされている人達も、今のこの日本のような社会で生きていくことに傷ついている人達も。

誰の元にも、夜は眠りを伴って、優しく訪れます。

だから、安心して。大丈夫だから。

目を閉じて。