「MAN IN THE MIRROR」と社会生活

Official髭男dism【MAN IN THE MIRROR】アルバム全曲解説!変わりたい人必聴の画像

2016年6月15日発表、Official髭男dismの通算2作目のミニ・アルバムMAN IN THE MIRROR」。

このミニ・アルバムに収録された全6曲を丁寧にご紹介しましょう。

Official髭男dismらしいピアノ・ポップスが中心になっています。

とはいえヘヴィなギターが唸ったり、バラエティに富んだ内容で各曲の個性が際立っているのです。

Official髭男dismの大ブレイクはこの後に控えています。

しかしインディーズ・ベースでの活動であっても、すでに多くのリスナーの支持を獲得しました。

この記事では各曲のサウンドの個性の説明に加えて、歌詞の解釈もしてゆきます。

藤原聡が書く歌詞はこの頃からすでに情報量がいっぱいで非常に饒舌です。

歌詞を読みながら彼のボーカルに耳を傾けていると、どこまでも変わってゆきたいと願う心に触れられます。

私たちはいまの生活を変えようと思っても中々きっかけを掴めません。

この「MAN IN THE MIRROR」の各曲の歌詞はそんな私たちに福音のように響くでしょう。

アルバム・タイトルの「MAN IN THE MIRROR」は鏡の中の男はどう答えるかなという意味です。

元ネタはおそらくマイケル・ジャクソンの同名曲でしょう。

この曲の中でマイケルは鏡の中の自分に語りかけるのです。

僕が変わるにはどうしたらいいかを鏡に問うことから始める歌詞であります。

そこには社会生活の中で萎縮している僕の憧れや切ない思いが滲んでいるのです。

それではオープニング・チューンから順に聴いていきましょう。

1.「Clap Clap」

アップ・テンポなご挨拶

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アルバムの冒頭からOfficial髭男dismのピアノ・ポップスが全開で展開されます。

固有の軽さというものを感じる楽曲です。

アップ・テンポのサウンドの軽快さが印象的でしょう。

要するに手をたたきましょうという内容の歌詞で、これからアルバムすべてを一緒に楽しみたいと願うのです。

底抜けの明るさが漂うサウンドですが、間奏のソロは泣きのギターが全開です。

3分10秒という短い楽曲で「MAN IN THE MIRROR」の最初の挨拶に徹しました。

何よりもライブで演奏することを念頭に置いているのでしょう。

一緒に手をたたいて盛り上がりたいものです。

歌詞の方も覗いてみましょう。

人間の可能性を信じ切ること

手を挙げてclap clap マイナス思考にclap clap
もう終わりにしようよ
人生のピークなんてclap clap
決めつけないでほらclap clap
まだまだこれからでしょう?

躓いて来た石ころを 拾ってばかりじゃ
すぐ持ちきれなくなるでしょう?
その手を開いて ここに置いて行こう
しぶといトラウマも全部 払おう

出典: Clap Clap/作詞:藤原聡 作曲:藤原聡

歌い出しの歌詞を選んでみました。

とにかくネガティブなことは横へ置いてゆこうよと歌ってくれます。

この曲は不思議なことに語り手以外は誰が誰なのか分からないとことです。

語り手の1人称でさえ明示されません。

藤原聡はとにかくこの世間にいるたくさんの人に届くようにこのような歌詞にしました。

リスナーに直接語りかけて嫌なことは置いてゆこうと歌うのです。

現実逃避を推奨する訳ではありません。

むしろ現実の生活をどう楽しく乗り越えるかについてヒントをくれたのです。

基軸にあるのは人生の頂点なんてものは自分で決めてしまうものではないという考え方でしょう。

確かに「あの頃の私が最高だった」と思い込んで、これからの成長を諦めることはもったいないです。

人間はいつだって成長できるし可能性のある存在なのだから楽しくゆこうと歌います。

人間の本質をその可能性というものに見る藤原聡の哲学のようなものが背景にあるのです。

彼の人間哲学は多くの人にとっての励みに変わります。

Official髭男dismがサウンドも歌詞もひっくるめて、J-POPシーンを席巻したのは理由があるのです。

2.「コーヒーとシロップ」

アーバン・ポップで語ることは

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Official髭男dismにとってこの曲の存在は大きいものかもしれません。

「Clap Clap」の底抜けの明るさはどこにいったのと思ってしまうようなシリアスな歌詞になっています。

とはいえ楽曲はOfficial髭男dismらしいピアノ・ポップスで明るい曲調です。

疾走感とアーバン・ポップのような雰囲気が印象的でしょう。

ザクザクと刻んでゆくようなピアノのコードストロークなどに注目しましょう。

歌詞に現れる気が急いているような雰囲気を上手に再現しています。

とにかく社会人は辛いという歌詞ですので共鳴する方は多いはずです。

学生にもファンが多いOfficial髭男dism。

一方でメンバーがきちんとした社会人として生活を送っていた事実は大きなものでしょう。

音楽家はライブ活動のために定職に就かない傾向があります。

Official髭男dismの異色な側面というのはその社会への貢献の在り方の真っ当さにもあるのです。

それでは実際の歌詞をご紹介しましょう。

いまの時代の「労働ソング」

朝が嫌になった テレビも嫌になった
いつも時間に数字に 追われる毎日
不思議に思った 君は平気なんだろうか?
笑顔の裏に隠した 言葉はなんだ?

例えば 何十年か後に偉くなれたなら
そしたら 僕もあんな風に威張りだすんだろうか?
例えば 君が明日どこかへ逃げ出したなら
そしたら 「誰でもいいさ」と笑い出すのか?

出典: コーヒーとシロップ/作詞:藤原聡 作曲:藤原聡

生活実感が見える箇所を抜き出してみました。

登場人物は語り手で社会人の僕と愛する君です。

社会人になると学生時代とは違って朝というものが本当に嫌いになった

そんな僕の心境がそのまま描かれています。

仕事にもそれこそ色々な種類ありますが、本来はクリエイティブな側面を持つのが僕です。

藤原聡は銀行員というお堅い職業に就いていました。

銀行員の中でも過酷な営業職です。

「コーヒーとシロップ」には当時の社会人としての思いがたっぷり詰め込まれています。

その多くは愚痴なのですから、やはり芸術家肌の彼にはストレスが多かったのでしょう。

とくに営業職は成績というものに追われる立場です。

コミュニケーション能力が大事なのでエンターテイナーの彼には向いている面もあるでしょう。

しかしやはり生活のためにしている営業職と舞台上での観客へのサービスではやり甲斐が違います。

また、藤原聡が銀行員のままで終わっていたら、J-POPシーンにとっては大きな損失です。

僕は愛する君も社会の荒波に飲まれている事実を心配します。

ふたりでデートするときは笑顔でいてくれるのが君です。

しかしその心のうちに隠した心配事は何だろうと僕は気にします。

自分が感じている社会からのプレッシャーの重みというものに君も押し潰されてはいないか。

僕は君のことを自分のことのように心配できる優しい人格者です。

この優しい性格は社会では損をすることの方が多いかもしれません。

不遜でわがままな人物こそがその欲望のままに社会で成り上がってゆく構造があるのです。

そんな人間への軽蔑の気持ちも描かれています。

社会というものはコーヒーのように苦い、僕はシロップのように甘すぎる。

それこそが「コーヒーとシロップ」というタイトルの由来です。

こうした歌詞はいま藤原聡にしか書けない「労働ソング」かもしれません。

3.「Happy Birthday To You」

大人びたサウンドと破格の出来栄え

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