ハチ名義ファーストアルバムの表題曲

今や日本中にファンを抱える稀代のアーティスト、米津玄師。
彼のアーティストとしての始まりは、実はVOCALOIDプロデューサーでした。
ハチという名義で以前はVOCALOIDのプロデューサーをしていた彼。
VOCALOID好きの中でも非常に人気の高いプロデューサーの1人でもあったのです。
本日ご紹介する楽曲は、米津玄師がまだハチであった頃の楽曲【花束と水葬】。
彼のハチ名義として初めてリリースしたアルバム『花束と水葬』の表題曲となっています。
この楽曲では、非常に重くて暗い、そして哀しい『自らの命を終わらせる』というテーマを歌っています。
当時から独特の世界観で、多くのリスナーを虜にしていたハチ。
彼のその世界観に、この曲の歌詞を通して迫ってみたいと思います。
これは私の死の物語
真っ暗な世界に、たったひとり
「もういいよ」 返事は無い
惑う星も 見えなくなって
肌を刺す 冷たさに
灯台守と 目が合って
出典: 花束と水葬/作詞:ハチ 作曲:ハチ
「もういいかい?」
確かに誰かが、そう言ってくれたはずでした。
その声に答えるも、辺りはしんと静まり返っています。
かくれんぼという遊びは、隠れる者と見つける者がいて初めて成立するものです。
今の私を探しに来てくれる人は、私を見つけてくれる人は、もしかしたらもう誰もいないのかもしれません。
遠くに煌いていたはずの惑星も、今はもう何処にあるのかもわかりません。
私が立ち尽くしているこの場所も、真っ暗な深い闇に覆われてしまいました。
ここは何処なんだろう。
私はなぜ、此処にいるんだろう。
悴む凍えた指を温めながら、ぼんやりとそんな事を考えるのです。
私がここにいる理由、それは…
今は一人 ここでひとり
瞑目に全部預けて来た
見たくないわ
出典: 花束と水葬/作詞:ハチ 作曲:ハチ
周囲を見回しても、どこまでも続く真っ黒な闇があるだけ。
ふと、頭の中に過ぎるノイズ交じりの景色。
その見覚えのある光景に、彼女はなぜ自分がここでひとりきりであるのかを悟りました。
瞑目というのは、『目を閉じること、安らかに死ぬこと』を表す言葉です。
この言葉から、この歌の中の彼女は死の際にいるのではないかと想像することができますね。
今まさに、命の灯が消えようとしている1人の少女。
ですがその顔はきっと安らかな眠りに付くように、穏やかな表情をしているのでしょう。
彼女は目を閉じることで、見たくないものを全て生きていた世界に預けて来た、と語ります。
誰にも知られることなく、たったひとりでひっそりと。
もしかしたら彼女は、自らの手で自らの命を終わらせることを選んだのではないでしょうか。
明日なんていらないから
ねえ神様 私の事
殺して お願い
明日になる前に
ここから先 何にも無い
私と よく似てる
ただの根 枯れた根
出典: 花束と水葬/作詞:ハチ 作曲:ハチ
人が自らの命を終わらせたいと願う時、そこにあるのはどのような思いなのでしょうか。
深い悲しみ、耐えきれない辛さ、そして絶望。
同時に必ず抱えるのは、諦めの気持ちだといいます。
もうこれ以上、生きていたくはない。
生きることに、疲れてしまった。
ここから先の私の未来には、なにもないという諦めの感情。
これから大きく成長することも、鮮やかな花を付けることも、豊かな実を付けることもない。
さながら、枯れてしまった植物の根のように。
私が存在する意義など、なにもない。
そんな思いが自分の心に抱えきれないほどに大きくなってしまった時。
人は、自らの手で自らの命を絶つことを選ぶのです。
どれだけの命が生まれ死んでいこうとも、明日はやってきます。明けない夜はありません。
それは時として、非常に残酷なことなのかもしれないのです。
世界の時を止めることができないのであれば、せめて私の身体に流れる時だけでも。
そうして、彼女は自分自身の時を止めることを選んでしまったのでしょう。
薄れゆく意識の中で彼女が思うこととは
水の中はとても静かで
今は一人 ここでひとり
排水溝に流れてく髪が
渦を巻いた
出典: 花束と水葬/作詞:ハチ 作曲:ハチ