では、MVをご紹介していきましょう。
今作でメガホンを取ったのは、今ノリに乗っている映像監督の山田智和です。
彼はこれまでユニークな作品を撮り続けてきました。
たとえば多数手掛けている「水曜日のカンパネラ」のMVは、どれもユニークなアイデアを感じる作品ばかりです。
またサカナクションのライブ映像や米津玄師の「Lemon」のMVなど、多くの視聴者を巻き込める作品も担当。
MVだけではなく「UNIQLO」や「Microsoft」のCMも撮っている、いま引っ張りだこな監督です。
佐藤が渋谷の街を疾走
はしゃぎだした街を抜け出す軽やかなMV
最初は光が集合していく様と佐藤のワンカットからスタートするMV。
その後は佐藤が東京の夜をふらりと歩くシーンに変わります。
人がいない駐輪場を抜けて、車が渋滞する喧騒の大通りに。
その後2番のAメロに入るとともに、渋谷センター街を疾走する画が表れます。
スーパースローカメラで撮影されているので、幻想的で怪しげな雰囲気が漂っているのにも注目。
109の明るいネオンに向かって、TSUTAYAを横目にすこしほほえみながら走る佐藤。
そのまま中華料理店の入り口から出口へ。ここでは「B級映画」についての歌詞があります。
もしかするとジャンキーな中華料理をB級グルメ的存在として扱っているのかもしれません。
その後、国道沿いから古着屋の隣へと移り、なおもダッシュ。
置き型花火のような装置から噴出する光のなかを駆けていきます。
そして最終カットではじめのような歩行シーンに変わって、エンドロールです。
渋谷をロケ地に選んだワケ
「はしゃぎだした街」を、このMVでは渋谷で表現しています。
センター街には人がまばらですが、ちょうど”パリピ”たちが集まってくる時間帯。
そこを抜け出してSkipしながらきみのもとへ、と歌詞にはありますが、スキップどころかダッシュですね。
この曲の”浮いちゃうような恋”を如実に表しているシーンだと思います。
また、渋谷をロケ地に選んだ理由を考えるにあたって、もう1カ所注目すべき歌詞があります。
ミレニアル世代の恋愛を表現
日焼けすればもう傷跡は目立たない
居場所なんてものいつだって流動的
出典: Summer Gate/作詞:Chiaki Sato 作曲:Chiaki Sato
「日焼けすればもう傷跡は目立たない」。
ここでは、失恋のことを書いているのでしょう。
「日焼け」とは、いわば年月の比喩。となると「傷」とは失恋のダメ―ジです。
居場所とは「恋人」のことでしょうか。この表現は2018年の若者たちの恋愛を端的に言い表していますよね。
結婚率が下がって離婚率が上がり、J-POPから「愛してる」というフレーズが減った現代。
1人のパートナーと付き合い続けたり、添い遂げるような時代ではありません。
つまり居場所=恋人なんて流動的なのです。若者は根無し草なのです。それでいいのです。
若者の街・渋谷をロケ地に選んだのはこうした背景があるのでしょう。
光の表現にも注目!
また、このMVで印象的に映されるのが光。
基本的に夜の撮影だったこともあるでしょうが、光を効果的に使っています。
冒頭の光の収縮や、街のネオン、車のテールライト、噴出する花火。
佐藤にピントが合っているので、ほとんどの光はボヤけています。
この演出はストーリーとは関係ないでしょう。
しかしMVを映像作品としてみたときに、幻想的なムードを醸すための効果的な演出です。
佐藤が纏うミステリアスな空気を投映しているように思えます。
ぜひ光がもたらす効果についても注目してください。
山田監督の技術力の高さ。見せ方のうまさがよく分かります。
きのこ帝国と聴き比べてみる
あらためてバンドの楽曲をチェックしてみよう
「SickSickSickSick」のリリースを記念して、YouTubeに佐藤ひとりでのライブ動画が上がりました。
SPACE SHOWER TVとJ-WAVEが共同で撮った映像です。
やはりギターを持たずスタンドマイクで歌う様から、すでに違和感がありますよね。
先述した通り、楽曲のテイストも違いますが、ステージパフォーマンスにも差があります。
このページで楽曲を聴いた方は、きのこ帝国で歌う佐藤の姿・楽曲もあらためてご覧ください。
違いが分かれば、佐藤がソロでかなえたかった音楽が分かってくるでしょう。
もちろん、どちらもかなり完成された楽曲でところどころに独創性もあります。
この機会にきのこ帝国のアルバムをリピートしてみるのもいいかもしれませんね。
そんなきのこ帝国の魅力がもっとわかる記事はこちらです。