ちなみに楽曲後半にも、儚いものの美しさを綴ったフレーズが登場します。

ビール瓶で殴る街路灯、投げるギターの折れる音、
戻らない後悔の全部が美しいって、そういうのさぁ、僕だってわかるのに

出典: 思想犯/作詞:n-buna 作曲:n-buna

ここで「儚さ」を表現しているのが「後悔」という言葉。

正確には過ぎ去った日々に対する後悔の念です。どんなに願っても取り返すことができない、そんな感情。

その儚さを訴えかけているのですが…。

最後のフレーズを見てみると、まだ何か言いたげな様子さえ感じられますね。

わかっているのに…この後に続くのはいったいどのような言葉なのでしょうか。

どことなく否定的な言葉、例えば「わかっているけれどできない」のような表現が続きそうなこのフレーズ。

実は楽曲最後に繋がる伏線と捉えることもできるのです。

ここでは答えに触れず、先に進んでいきましょう。

破壊欲の理由

認められたい、愛したい
これが夢ってやつか
何もしなくても叶えよ、早く、僕を満たしてくれ
他人に優しい世間にこの妬みがわかるものか
いつも誰かを殴れる機会を探してる

出典: 思想犯/作詞:n-buna 作曲:n-buna

主人公が儚さの美学に魅せられ、何かを壊したいと願いながら過ごす理由。

それは彼が持つ承認欲求にありました。

3行目にあるとおり、主人公は本来破壊など望んでいません。

彼にとって最大の望みは「自分の承認欲求が満たされること」、ただそれだけでした。

しかしその欲求は簡単に満たされません。だからこそ破壊に行き着いたのでしょう。

それが簡単に目立つことのできる手段であり、簡単に存在を知らしめることのできる手段だからです。

5行目の歌詞からも、認められることに必死な主人公の様子が見てとれますね。

誹謗中傷さえも

見てもらえるなら何でもいい

他人に優しいあんたにこの孤独がわかるものか
死にたくないが生きられない、だから詩を書いている
罵倒も失望も嫌悪も僕への興味だと思うから
他人を傷付ける詩を書いてる
こんな中身のない詩を書いてる

出典: 思想犯/作詞:n-buna 作曲:n-buna

主人公が抱える孤独。それは「誰にも認められていない」という思い込みからきています。

その孤独感は主人公の人生観にも多大なる影響を与えました。

誰かに認めてもらうまで死ねない。でも誰かに認めてもらえないと生きていけない。

歪んだ思想を持つ主人公はただひたすらに承認を求め、破壊への想いを募らせていきました。

3行目以降にあるような「人を傷つける行為」は、主人公の言葉通り相手に興味がなければできません。

つまり相手を傷つけること、何かを破壊することは同時に、その対象への興味関心を意味しています。

だから主人公は誰かを傷つけ、何かを壊そうとしているのです。

いずれその行為に対する反応、例えば恨みや怒りが自分に向くことを期待して…。

どんな言葉も受け止めるから

君の言葉が呑みたい
入れ物もない両手で受けて
いつしか喉が潤う
その時を待ちながら

出典: 思想犯/作詞:n-buna 作曲:n-buna

自分の承認欲求のためなら他人からの誹謗中傷さえ厭わない。

そんな気持ちが1行目の「呑みたい」という言葉に込められています。

呑みこむ言葉の味は問いません。自分に向けられたものであれば、どんなものでも良いのです。

2行目からも、主人公がその言葉をいかに欲しているかがわかりますね。

コップを探す時間すら惜しいほどに飢えている。そんな承認欲求の大きさが感じられる1フレーズです。

続く歌詞を見ればわかる通り、そうして貪った言葉たちは確実に主人公の心を満たします。

冷たい水がカラカラに枯れた喉に潤いを与えるように…。

人を傷つけるような言葉だとしても、承認に飢えた主人公は潤いを感じることができるのです。

残された美しさ

鳥の歌に茜
この孤独よ今詩に変われ
さよなら、君に茜
僕は今、夜を待つ
また明日。口が滑る

出典: 思想犯/作詞:n-buna 作曲:n-buna