20歳を迎える前年には、「あさま山荘事件」、「ミュンヘンオリンピック事件」、「テルアビブ空港乱射事件」。
そして20歳を迎えた1973年には、「日航機ハイジャック事件」、「コインロッカー乳幼児遺棄事件」……
血生臭く陰惨な事件が続く時代でした。
1976年11月、「ぼくたちの失敗」がリリース
セカンド・アルバム「マザー・スカイ=きみは悲しみの青い空をひとりで飛べるか=」
「ぼくたちの失敗」は、1976年11月にリリースしたアルバム「マザー・スカイ=きみは悲しみの青い空をひとりで飛べるか=」の収録曲です。
同年、「ぼくたちの失敗」はシングルカットされました。
このアルバムのうち2曲が、後に「少女革命ウテナ」の音楽を手がけるJ・A・シーザーが編曲者としてクレジットされています。
「世界を革命する力を!」と叫ぶ主人公ウテナを、後年、森田童子はどのような想いで見ていたのでしょうか。
すっかりしらけてしまった時代
1976年は、ロッキード事件で揺れていた時代です。
学生運動に失望した若い世代は、政治を批判したり議論することにはもうすっかり関心を失っていました。
熱に浮かされた後のしらけ切った気分の中、「無気力・無関心・無責任」の三無主義、個人主義が台頭した時代です。
学生運動の埋み火
君と話し疲れて
いつか 黙り こんだ
ストーブ代わりの電熱機
赤く燃えていた
出典: ぼくたちの失敗/作詞:森田童子 作曲:森田童子
ずっと政治の話や世の中の不条理について話したあとの、不意に訪れる沈黙。
学生運動の終焉をイメージさせるような情景です。
友人が逮捕されてからの嵐のような激動の時代はつい数年前のことだったのに……
今ではもう見かけなくなった、コイル状のニクロム線が発熱して赤くなる電熱器。
片手鍋でインスタントラーメンを作ることが多く、学生寮の部屋の片隅に必ず有ったアイテムです。
ストーブ代わりというのが何ともわびしく、寒々とした光景です。
熱狂した学生運動の埋み火をそこに見たのかもしれません。
時代に取り残されたぼくたち
地下のジャズ喫茶
変われないぼくたちがいた
悪い夢のように
時がなぜてゆく
出典: ぼくたちの失敗/作詞:森田童子 作曲:森田童子
1970年代の学生たちの文化といえば「少年マガジン」、「深夜放送」、「フォークソング」そして「ジャズ喫茶」。
政治の話に疲れた頭を癒やしてくれたお気に入りのアイテム。
友人たちは政治的無関心や個人主義に流れていき、聴く音楽も自分たちのものとは違うものになっていました。
すっかり「置いてけぼり」になってジャズ喫茶にいる「ぼくたち」。
リアルだったはずの学生運動、繰り返し見た凄惨な事件、陰惨な出来事はまるで悪夢のようです。
そして、ぼくらは…
ぼくの部屋に残された君の宝物
ぼくがひとりになった
部屋にきみの好きな
チャーリー・パーカー 見つけたョ
ぼくを忘れたカナ
出典: ぼくたちの失敗/作詞:森田童子 作曲:森田童子