少し前のフレーズを見てみましょう。

Though I know that evening’s empire has returned into sand
Vanished from my hand
Left me blindly here to stand, but still not sleeping

出典: Mr. Tambourine Man/作詞:Bob Dylan 作曲:Bob Dylan

主人公がタンブリンマンに呼びかけるきっかけともいえる「症状」のヒント。

それは恐らくここに描かれたものです。

夜の帝国は砂へと還って
俺の手からも消えてしまった
わけもわからずここに取り残されて突っ立ってる俺は、まだ眠たくない

出典: Mr. Tambourine Man/作詞:Bob Dylan 作曲:Bob Dylan

さらに彼は、自身の状態を訴えます。

My weariness amazes me, I am branded on my feet
I have no one to meet
And my ancient empty street’s too dead for dreaming

出典: Mr. Tambourine Man/作詞:Bob Dylan 作曲:Bob Dylan

ここで訴えられるのは、身体的なものとは少し違うようです。

驚くほどの退屈が足に焼き付いて
会いたい人も誰もいない
古びて誰もいないこの俺の通りは、夢を見るにはあまりに寂れてる

出典: Mr. Tambourine Man/作詞:Bob Dylan 作曲:Bob Dylan

「weariness」には「疲労」という意味もありますが「退屈」とも訳せます。

夜が明けても眠れずにいるのならば、確かに疲れも溜まるでしょう。

けれどここであえて「退屈」としたのは、「夢」という言葉があるからです。

比喩としての「通り」

一見すると、眠れずに過ごした一夜を終えて、人気のない通りに佇んでいるような描写。

しかしこれが全て比喩だとしたらどうでしょうか。

例えば、「俺の通り」は主人公の人生そのものと考えてみましょう。

彼は自分でも驚くほどの退屈に足をからめ取られ、身動きができずにいます。

会いたい人もいない、未来への夢も見られない。

だからこそ、より、今いるこの場所から動けないのです。

眠れない原因は

さらに「眠る」という行為は、少なくとも安心が確保されなければできないことです。

悩みや気にかかる事があると、眠気すら訪れないということもあるでしょう。

つまり彼は、それほどまでの強い閉塞感を抱いているのかもしれません。

そしてそれにも関わらず、人生という道を進むこともできず、ただ立ち尽くしているのです。

歌って、連れ出して

だからこそ、主人公はタンブリンマンに呼びかけます。

俺のために歌ってくれよ、と。

タンブリンに乗せられた彼の歌があれば、この閉塞的な状況から抜け出せる

ここではない、どこか別の世界に連れ出してもらえる。

そう考えているのではないでしょうか。

彼が抱える苦痛とは

抜け出したい過去

And take me disappearing through the smoke rings of my mind
Down the foggy ruins of time, far past the frozen leaves
The haunted, frightened trees, out to the windy beach
Far from the twisted reach of crazy sorrow

出典: Mr. Tambourine Man/作詞:Bob Dylan 作曲:Bob Dylan