ディープな世界観を歌う Mr.Children「深海」

歌詞にシーラカンスが出てくる個性的な楽曲「深海」。

Mr.Children(以下ミスチル)の曲の中でも、とりわけディープな世界観を演出しています。

歌詞の主人公は何を願っているのでしょうか?

一体どんな思いでシーラカンスに語りかけているのでしょうか?

ゆったりと深い海を漂うような雰囲気と、激情を併せ持ったようなこの楽曲

答えを見つけるのは難しいかもしれませんが、1つの回答を出してみたいと思います。

深海は心の中?

過去とは深い記憶

僕の心の奥深く
深海で君の影揺れる
あどけなかった日の僕は
夢中で君を追いかけて 追いかけてたっけ

出典: 深海/作詞:桜井和寿 作曲:桜井和寿

君は遠い過去の思い出。

君を探し求めていたのも、遠い昔の出来事なのでしょう。

記憶のディープな部分

それこそが主人公が言う深海の定義なのです。

記憶が古くなればなるほど、それを見つけるには意識の深い海に潜らなければならない。

心のその場所に辿り着いて君の姿が現れる。

話は逸れますが、レオナルド・ディカプリオ主演の大ヒット映画『インセプション』の1幕のようです。

主人公にとって君という存在は、もう心の中にしかいないのでしょう。

とっくの昔に別れて、もう連絡先すら知らないのかもしれません。

それでも、心の深海には彼女の姿があるのです。

遠く深い記憶の中。

決して大きくはないけれど、強烈な影が主人公の心に焼き付いているのでしょう。

遠い記憶=深海

記憶はどちらかといえば、濃淡で表すことが多いと思います。

もしくは遠い記憶などと、時間を距離で表現することもあるでしょう。

それを、古い記憶とは深海のようなものだと表現する切り口はとても斬新です。

そこにたどり着くには時間がかかり、明るく照らされているような意識下の場所でもないのだと思います。

桜井和寿の作詞センスは非常に高く評価されていますが、視点が常人のそれとは違うのかもしれません。

冒頭数行の表現で、楽曲の深い世界観に引き摺り込まれるようです。

ミスチルがいつまでも色褪せない理由の1つ。

それが、クリエイティブかつユニークな視点から歌詞を構築しているということなのでしょう。

誰もが共感可能

昔の恋人を思い出す

深海の歌詞で、主人公は昔の情景を懐かしがっているようです。

君を強く求めていた過去を振り返っています。

たまになんとなく昔の恋人を思い出すことは、多くの人が経験している出来事でしょう。

深海の歌詞は、実はありふれたことを歌っているのです。

だからこそ、強く共感できます。

しかし、君は深海の中にいるという視点が唯一無二なので、独創的な世界観が想起されるのです。

誰もが経験する出来事に対するイメージトーンを、ガラッと変えて表現した曲。

それが深海なのです。

固定観念が覆されたような感動を味わうことができます。

君との関係は?

主人公と君との関係は、先ほど述べたように昔の恋人という線が濃厚です。

しかし、明言はないので断定はできません。

パートナーを亡くしてしまったという可能性もあるでしょう。

深い海に沈めた記憶が忘れたいものだとしたら、その説も浮上します。

一般的なイメージですが、実際に深海に行くのは大変でしょう。

つまり、彼はいつも深海の思い出を取り出しているわけではないのだと思います。

昔の彼女との甘酸っぱい思い出なら、その辺の浅瀬を泳いでる魚のように簡単に見つけられるでしょう。

もしかすると主人公は、辛い思い出を水の底に封じ込めているのかもしれません。

ただこの説も断定はできないので、深海の影=切望しても戻れない情景と捉えるに留めましょう。

極論、曲を聴いた人が、それぞれの深海を思い浮かべればよいのです。

人によって曲から見える情景は違います。

しかし本質的なテーマは、皆で共有できるのではないでしょうか。

シーラカンスは何のメタファー?

不変の象徴