軽快で爽快

山口一郎流のテクノミュージック戦略

【エンドレス/サカナクション】歌詞を考察!耳を塞いでも声がする?山口一郎の描くエンドレスな世界に迫るの画像

「エンドレス」は2011年に発表された5thアルバム「DocumentaLy」に収録されています。

このアルバムには他にもアイデンティティ」「バッハの旋律を夜に聴いたせいです。」などを収録。

人気シングルを収録していたこともあってか、オリコンランキングでは初登場で2位を記録しました。

当時の方でこのアルバムからサカナクションを聴き始めたという方は多かったはずです。

過去にも「YMO」などがテクノミュージックでブームを起こしたことがありました。

しかし2011年の時点で、まだ日本のミュージックシーンにはテクノブームの波は来ていません。

では、なぜこのアルバムはヒットしたのでしょう。

このアルバムの収録曲は、全体的にテクノミュージックの領域にあることは変わりません。

しかし前述したヒットシングルの雰囲気が合間ってどこかポップな仕上がり...

サカナクション流のテクノポップミュージックアルバムといったところでしょうか。

そこに当時の若者たちに馴染み深いバンド編成でのパフォーマンスが加わる。

テクノをただの電子音楽としか捉えていなかった彼らには、実に新鮮な音楽に聞こえたはずです。

これが日本の産んだ天才ミュージシャン「山口一郎」の戦略だったのかもしれません。

デジャブ感がある曲調

今回、歌詞考察をする「エンドレス」。

全体的に疾走感とリズム感が錯綜する、非常に聴いていて気持ちが良い曲です。

曲の尺も3分48秒と程よい長さで何度も聴けてしまいます。

しかしこの曲はただ聴きやすいテクノポップというわけではありません。

筆者は初めてこの曲を聴いたときになんとも言えない「デジャブ」感を覚えました。

出だしの音や、曲中に時折入るメロディ。

一度聞いたことのあるような音や曲調を多く盛り込んでいるのです。

そこで飽きるのではなく、逆に何度も聴き入ってしまう...

おそらく大多数の人が「好きだな」と思うような音を積極的に取り入れているのでしょう。

そんな計算し尽くされた曲に乗ってくる歌詞

読書家である山口らしい奥行きのある仕上がりになっています。

聴いているこちらが深く考えさせられる内容です。

それではいよいよその歌詞にスポットを当てていきます。

人の行動は...

響くピアノ、響くサイレン。

軽やかなステップを彷彿とさせる疾走感のあるテンポで曲がスタートします。

誰かを笑う人の後ろにもそれを笑う人
それをまた笑う人と悲しむ人
悲しくて泣く人の後ろにもそれを笑う人
それをまた笑う人と悲しむ人

出典: エンドレス/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎

果たして自分はどこからこの光景を見ているのでしょう。

感情と行動が連鎖する中、まっすぐに並んだ列の最後尾にいるのでしょうか。

しかしこの人の列は1列ではないようです。

歌詞1行目までの人々は1列に並んでいるのでしょう。

しかし歌詞2行目からその列は分岐します。

「笑う」「悲しむ」

人々にはそれぞれの価値観がありその感情をあらわにする。

この列は後ろに行けば行くほど客観的な立場の人が増えていくはずです。

それに伴いそれぞれの意見が飛び交い、分岐は増えていく。

いずれは「傍観」する人も現れるでしょう。

しかしそれをまた「笑う」人や「悲しむ」人が現れるはずです。

まさにエンドレス。

当事者は誰なのでしょうか。

そもそもこの列はどこから続いているのか...

現在のネット社会を風刺しているように感じますね。

しかしネットが無かった時代からこのような連鎖はあったように思えます。

人の数だけ多種多様性は生まれる。

このフレーズはその現場を皮肉っぽく描いているのです。

気付いてしまう

気付けば自分も

1番サビの歌詞考察です。

「僕」は何に怯えているのでしょう。

AH 耳を塞いでる僕がいる それなのになぜか声がする
見えない夜に色をつける デジャブしてるな

出典: エンドレス/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎

連鎖する人々の声を聴きたくない「僕」。

1行目のフレーズにあるように、音を絶って連鎖から自分を切り離そうとしますが...

すぐに無意味であることを痛感させられます。

そして2行目のフレーズ。

ここで登場する「夜」。

筆者は「僕」が持っていない価値観のことだと思いました。

「自分が知り得ない領域=暗闇=夜」という解釈です。

なんとか聴こえてくる「声」に対して意見を言おうとしても納得のいく感情が芽生えない。

そこで無難に他の人と同じような行動をとるためにこのフレーズにあるような行動をしたのです。

そうして客観的に見ていた人の連鎖の列と自分の行動を比べ、「デジャブ〜」のフレーズを呟いたのでしょう。

どこへ行けば

AH 耳を塞いでる僕は歩く それなのになぜか声がする
見えない夜に色をつける声は誰だ

出典: エンドレス/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎

筆者は逃げることが解決に繋がるとは思いません。

しかし連鎖から逃げ出しても聴こえる「声」。

そして今度はその「声」が勝手に自分の感情に干渉してきます。

これはたまったものではありません。

そして2行目のフレーズ。

その「声」の主に正体を問いかけているのでしょうか。

恐怖的な感情が過ぎるフレーズです。