切なさを噛み締めながら

くるり【ワンダーフォーゲル】歌詞の意味を解釈!こぼれ落ちた大事な物は?すれ違う君との関係性を読み解くの画像

つまらない日々を 小さな躰に
すりつけても 減りはしない
少し淋しくなるだけ

ハローもグッバイも
サンキューも言わなくなって
こんなにもすれ違って
それぞれ歩いてゆく

出典: ワンダーフォーゲル/作詞:岸田繁 作曲:岸田繁

僕は地道に地表を歩いてゆく存在です。

毎日がバラ色で彩られるような派手な生活をしている訳ではありません。

むしろ日常はただ時間が漫然と過ぎゆくだけの地味な生活なのでしょう。

つまらないとさえ形容してしまう毎日です。

それでも僕は凹んだりはしません。

こういう人生を選んだのだから仕方ないという頑固さえあるのです。

私たちは同じようなことの繰り返しの日々を生きています。

こんな生活がいつまで続くのだろうと出口を探そうとさえするのです。

しかし出口までの秒数を数えたところで中々距離は縮まりません。

さらに出口を抜け出した後も続く道は平坦だったりするのです。

一喜一憂していては心も身体も持ちません。

ただ何かいいことないかなと願う日々はなるほど哀しい側面もあります。

歌詞の中の僕も何ともいえない切なさを噛み締めながら生きているのです。

地上の生物は空をゆく鳥のようには生きられませんから仕方がないことは百も承知であります。

痛切なサビに震えた日々

くるり【ワンダーフォーゲル】歌詞の意味を解釈!こぼれ落ちた大事な物は?すれ違う君との関係性を読み解くの画像

サビの歌詞が続きます。

ファンにとっては馴染み深い歌詞でしょう。

「ワンダーフォーゲル」という楽曲に感じられる切なさはこのサビに由来します。

野道をそれぞれに歩く人々。

そこには歌詞の中の僕や岸田繁の姿があります。

さらに目を凝らせば私たち自身の姿も発見できるはずです。

私たちは成長するために自分の道をゆくうちに他者との接点を失くしてゆきます。

小学校ではクラスメイトがいて毎日顔を合わせてバカ騒ぎしながら生きてきました。

しかし成長する過程でそれぞれの進路へ振り分けられます。

あらゆる節目で卒業して新しい季節へと向かうでしょう。

新しい学校や職場の中でももちろん友人・同僚などはできます。

しかし無条件で信用できるという人が徐々に減ってゆくのです。

いずれ家庭を持つ人が多くいます。

家庭を持つとこの小さなサークルを保ち続けようと必死になるのです。

その分、コミュニケーションの質も範囲も変わってくるでしょう。

かつて毎朝、挨拶を交わしていたクラスメイトの姿はもはや視界にも入ってきません。

交友関係を縮小してゆくと交わす言葉も減ってゆきます。

簡単な挨拶でさえ交わせなくなるのです。

それはもちろんとても切ないことでしょう。

しかし私たちはこうしたことを大人になる過程で覚悟して背負ってしまうのです。

最高の価値は何か

一人前とされる日まで歩く

くるり【ワンダーフォーゲル】歌詞の意味を解釈!こぼれ落ちた大事な物は?すれ違う君との関係性を読み解くの画像

強い向かい風吹く

僕が何千マイルも歩いたら
どうしようもない 僕のこと認めるのかい
愛し合おう誰よりも
水たまりは希望を 写している
写している

出典: ワンダーフォーゲル/作詞:岸田繁 作曲:岸田繁

厳しい日常が僕を疲弊させます。

僕はボブ・ディランの「風に吹かれて」の一節のような事柄にこだわるのです。

どれだけ歩いたら一人前とされるのだろうという疑問。

僕にはまだ一人前の人間だと認められていないという自覚があるのです。

誰が認めてくれないのでしょうか。

憧れている君の視点では僕はまだまだと思われていると思い込むのです。

確かに地を這うものと空をゆくものでは生活圏内も違います。

地をゆくものは地道さこそが売りでしょう。

空を翔けるものは憧れの的であるくらいのまぶしさや華やかさがあるのです。

いつか一人前の人間だと認めてくれたらそのときはまず愛を交わしたいと訴えます。

異質なもの同士の交歓を求めるのです。

水面でこそふたりは等価になる

くるり【ワンダーフォーゲル】歌詞の意味を解釈!こぼれ落ちた大事な物は?すれ違う君との関係性を読み解くの画像

水たまりというキーワードはとても重要でしょう。

水面に地を這う僕と空を翔ける君が同時に映り込むからです。

水上というフラットな鏡面では地をゆくものと空を飛ぶものが等価になります。

僕であっても空翔ける憧れの君と同じ場所にいられるのが水面なのです。

ここにこそ僕が望む未来の姿でしょう。

希望だとさえ歌うのは大袈裟なことではないのです。

生活圏が異なるもの同士が交歓しあえるものとして水上という鏡面を選ぶ詩才とその哲学的洞察の深さ。

若い岸田繁のおそるべき才能がのぞけます。

そして彼にとっての至高の価値は愛なのだとも理解できるのです。

冒頭で手からこぼれ落ちた大事なものの正体は愛でしょう。

失ったものをもう一度手にしたいという強い想いが力強く伝わってきます。

君によって一人前の人間だと認められたら愛を交わしたい。

僕はそのためにここからも道を歩み続けるのです

「ワンダーフォーゲル」とは総体として愛の歌なのでしょう。

非常に広い意味でのラブソングです。

最後に 絶望にも負けないで

くるり【ワンダーフォーゲル】歌詞の意味を解釈!こぼれ落ちた大事な物は?すれ違う君との関係性を読み解くの画像

矢のように月日は過ぎて 僕が息絶えた時
渡り鳥のように 何くわぬ顔で
飛び続けるのかい

ハローもグッバイも
サンキューも言わなくなって
こんなにもすれ違って
それぞれ歩いてゆく

出典: ワンダーフォーゲル/作詞:岸田繁 作曲:岸田繁

いよいよクライマックスの歌詞になります。

将来の見通しは甘くないようです。

僕は自分が死んだ後のことを想像します。

君は相変わらず空を翔ける存在であり、地中に埋まる僕を顧みもしないのではないかと思うのです。

地を這って一生懸命生きた身としてひと言くらい君に嫌味を口にしました。

君にはあの水たまりに映るふたりの情景が見えなかったのでしょうか。

分かりあえず、挨拶も交わせないままにふたりの人生は終わってしまうかもしれない。

そんな絶望的な未来を想像します。

何せ同じ地を這って生きるもの同士でもいつの間にか挨拶さえできない関係に変わりゆくのです。

生活圏内が近いものであっても挨拶しないというのは実際に大都会では現実になっています。

不審者と思われないように注意して振る舞わなくてはいけないと意識すると迂闊に挨拶もできません。

地域差や居住環境の差はあるのでしょうが、こうした傾向はますます強固なものになってゆきます。

その分、市民間の交歓というものが徐々に失われてゆきました。

失くなったものはやはり愛なのではないでしょうか。

それでもそれぞれの道をゆくしかない現状を私たちは引き受けてしまいます。

楽曲ワンダーフォーゲル」を整理しましょう。

成長するごとに私たちは他者への関心そのものを失ってゆきます。

幼い何でも興味津々で瞳を見開いて見ていた人間関係も少しずつ閉じてゆく傾向にあるのです。

それでも自分の選んだ道を僕は歩いてゆきます。

憧れの人に一人前だと認められる未来を願っているので成長するためにひたすら歩くのです。

しかしその道すがらむしろ大きな愛を失ってしまった想いを抱きます。

それでも目の前の野道をゆくしかないのですからこの歌の寂寥感は相当なものです。

しかし力強いサウンドと歌声によって歌われるナンバーになっています。

ライブではこの寂寥感を観客とともにシェアするのですからくるりは戦略的です。

抱えきれない寂しさをリスナーとともにシェアできるのは芸術というものの利点でしょう。

絶望にも負けないで歩いてゆくという気概こそがくるりを支えてくれました。

メンバーチェンジなどもありましたが、今日まで現役で大活躍しています。

くるりのテーマソング的なイメージをこの「ワンダーフォーゲル」に求める人も多いでしょう。

寂しくなるのに勇気が得られるという不思議な楽曲です。

ずっとリピートして人生のテーマソングにしてみてください。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

OTOKAKEとくるりの軌跡