青いまま枯れてゆく
あなたを好きなままで消えてゆく
私みたいと手に取って
奥にあった想いと一緒に握り潰したの
大丈夫 大丈夫
今すぐに抱きしめて
私がいれば何もいらないと
そう言ってもう離さないで
なんてね 嘘だよ さよなら
出典: ハッピーエンド/作詞:清水依与吏 作曲:清水依与吏
ラストのラインです。
男女の別離というのは誰にとっても切ないもの。
そのお別れが知らない誰かの恋愛であっても残念に思ってしまうのが人間に備わった情です。
リスナーはこの見知らぬ女性の失恋に同情を禁じえません。
タイトルは「ハッピーエンド」ですがこの女性は本当に幸せなのかな？ 強がっていないかな？ と心配します。
別れ際に「ありがとう」と言い合える別れは美しい。
相手のことを好きなままで別れてしまうことは矛盾のようですが、現実ではしばしば起こりうること。
清水依与吏はこの女性のこれから先の未来へのはなむけとして「ハッピーエンド」と銘打ったのでしょう。
彼の人間としての優しさが滲みます。
2位は孤独な恋愛風景を描いた曲
2位 「クリスマスソング」
back numberの14枚目のシングル「クリスマスソング」、2015年11月18日発売。
チャイムが鳴り壮大な曲調の演奏が始まります。
歌が始まると割と朴訥とした歌い方でアコースティック・ギターも抑制したコード・ストローク。
歌われているのはクリスマス・シーズンで浮かれる街並みでの孤独な恋愛風景です。
中々、願いが成就しない苦しい恋愛であるよう。
しかし「僕」は「君」のことを諦めません。
歌詞を見ていきましょう。
片想いの痛みや寂しさ
会いたいと毎日思ってて
それを君に知って欲しくて
すれ違う人混みに君を探している
こんな日は他の誰かと笑ってるかな
胸の奥の奥が苦しくなる
できれば横にいて欲しくて
どこにも行って欲しくなくて
僕の事だけをずっと考えていて欲しい
やっぱりこんな事伝えたら格好悪いし
長くなるだけだからまとめるよ
君が好きだ
聞こえるまで何度だって言うよ
君が好きだ
出典: クリスマスソング/作詞:清水依与吏 作曲:清水依与吏
清水依与吏らしい饒舌なラブ・ソングです。
様々な言葉が湧いてくるけれども伝えたい言葉はシンプルな一言に収斂する。
そんな「僕」の想いはストレートに「君」に向けられます。
「僕」には「君」に振り向いて欲しいという率直な願望があるのです。
片想いというのは恋の喜びと痛みが共存しているもの。
片想いと比べたら最初から両想いで始まる幸運な恋愛の方が少ないでしょう。
ほとんどの恋愛が男女どちらかの片想いで始まります。
両想いになるまで恋が成長するには相応の時間と努力が必要です。
大切なことは相手に伝えたい想いを言葉にできるかどうか。
ときに現実を動かすのは言葉とその裏付けである心の在り方です。
一緒に幸せなクリスマスを迎えたい。
「僕」の「君」への想いが届くといいです。
リスナーは自分の切々とした想いをこの曲「クリスマスソング」に重ねます。
案外、季節を問わない普遍性がある歌です。
クリスマス・シーズンでもないのにラジオなどでこの曲を耳にします。
すべての片想いに潜むもどかしさと率直な恋心がこの歌の季節的な背景を無効化するのです。
こうした現象の原因は「クリスマスソング」の歌詞と楽曲に存在する普遍性のチカラによるもの。
この曲をback numberの人気曲の第2位に推します。
1位はback number、2019年の到達点を示す曲
1位 「HAPPY BIRTHDAY」
back numberの20枚目のシングル「HAPPY BIRTHDAY」、2019年2月27日発売。
太いエレキ・ギターの音色で始まるこの曲を1位に推します。
切ない片想いの歌です。
歌詞もサウンド・プロダクションも一級品。
古いロックとフォーキーな雰囲気がフュージョンしているback numberによる唯一無二のサウンドです。
2019年、back numberの音楽の到達点。
歌詞のシチュエーションは片想い中の「俺」が誕生日を迎えるにあたって「君」からの祝福を待つというもの。
男性視線の歌ではありますが片想いをしている人にとっては特に性差を感じずに没入できるはずです。
歌詞を見ていきましょう。
片想いをしたことがあるすべての人へ
つまらない言葉の繰り返しで
つじつまもきっと合ってない物語の続きに
ひとりよがりの毎日に
ハッピーバースデー
君に言って欲しいだけ
くだらない話は思い付くのに
君を抱き締めていい理由だけが見付からない
ああそうか そうだよな
ハッピーバースデー 片想いの俺
ハッピーバースデー 片想いの俺
出典: HAPPY BIRTHDAY/作詞:清水依与吏 作曲:清水依与吏
ファルセットによる歌唱が見事なラストのラインです。
「君」のために軽い話はいくらでもできるのにいざ恋心を打ち明けようとすると口ごもってしまう。
片想いを経験したことのあるリスナー、いま正に片想い中だというリスナー。
すべての人が共感できる感情です。
自らを鼓舞する言葉をつぶやく
ハッピーバースデー 片想いの俺
ハッピーバースデー 片想いの俺
出典: HAPPY BIRTHDAY/作詞:清水依与吏 作曲:清水依与吏
「君」からの祝福を得られないならば自分に向けてお祝いの言葉を贈ろう。
すべてが幸福なわけではないのですが誕生日というものはその日一日、誰よりも祝福されるべき特別な日です。
自分自身の凛々しい恋心を労（ねぎら）い祝ってあげよう。
どこまでも孤独な光景です。
それでもいつか「俺」も孤独の殻を打ち破り、「君」と「俺」の間の壁を愛のチカラで乗り越えるはず。
この歌詞で綴られているほどの強い気持ちがあれば辛い片想いもいつの日か実って欲しいと思わされます。
「HAPPY BIRTHDAY」
歌詞もサウンド・プロダクションも片想いの切なさを卓抜した表現力で描ききっています。
この曲が収録されたアルバム「MAGIC」はオリコンチャートで1位を記録しました。
最後に:back numberで培う「共感力」
人間にとって大切なことだけを歌うバンド
清水依与吏、back numberの歌詞が胸に響く人には固有の「共感力」が宿っていると信じます。
不遇な片想い、失恋、恋の喜び、ふたりでいることの楽しさ。
私たちはback numberのナンバーを聴きながら切なく胸を焦がします。
こうした「共感力」が人と人との間に横たわる孤独を埋めてゆく積極的なチカラなのです。
清水依与吏が紡ぐ歌詞はいつも少し饒舌な印象があります。
他のアーティストと較べて歌詞の情報量が多いのです。
あふれる言葉と創作意欲を抑えきれないのでしょう。
しかし決して無駄な言葉は使っていません。
むしろ人間の根本にとって大切なことだけを歌っています。
これからもback numberの新しい挑戦に期待しましょう。
そして皆さん自身でこのバンドのTOP10を選んでみてください。
10曲という制約の中では収まりきらない素晴らしい曲がたくさんあることに驚かされるはずです。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
