懐かしさ漂うナンバー
アルバム収録楽曲
サカナクションにとって7枚目のアルバムである『834.194』。
今回ご紹介する【マッチとピーナッツ】は、このアルバムのDISC1に収録されています。
昭和に流行したダンスミュージックのような雰囲気をまとった本楽曲。
薄暗い店内、ミラーボールの怪しげな光の下で人々が踊っている様子を想像できるのではないでしょうか。
きっとお酒を飲みながら踊っているのでしょう。ここで出会い、恋に落ちた男女もいたはずです。
楽曲内で描かれるのは?
この楽曲で描かれているのも、たくさんの人が集うこの場所で出会い結ばれた男女の姿。
ただ残念ながら、2人の関係はすでに終わりを迎えているようです。
きっと出会ってからそこまで時間は経っていないでしょう。
相手のことを深く知るには時間が足りなかったに違いありません。
ただそれでも男性側は、相手を理解し仲を深めようと努めていました。
その努力も虚しく女性は去ってしまうわけですが、1人取り残された男性は寂しくあるものを頬張ります。
なんだかその食感が自分の心を映し出しているようで…そんなシーンからこの楽曲はスタート。
歌詞を読み解きながら、あっという間に散った男性の儚い恋心に迫っていきましょう。
ピーナッツとともに綴られる僕の心
別れの理由?
深夜に噛んだピーナッツ
湿気ってるような気がしたピーナッツ
あの子が先に嘘ついた
出典: マッチとピーナッツ/作詞:Ichiro Yamaguchi 作曲:Ichiro Yamaguchi
主人公は失恋直後の男性。便宜上「僕」と呼びます。
僕は薄暗い場所で、1人寂しく座っているようですね。
昨日までか、つい1時間前までか。それはわかりませんが少なくとも最近まで隣には女性がいました。
しかし何らかの理由で2人は決別。僕だけが2人の出会いの場所にとどまって物思いにふけっているのです。
そんな中で僕が食べているもの。それがタイトルにもある「ピーナッツ」です。
カリッとした食感と香ばしさがお酒によく似合うピーナッツですが、残念ながら僕が食べているそれは違った様子。
美味しさの秘訣であるカリッとした食感も、豆らしい香ばしさも感じられません。
きっとこのピーナッツの表現、現在の僕の心境を表現しているのでしょう。
きっかけは一目惚れだったのかもしれません。踊る女性を見て一目で恋に落ちた僕。
愛に満ちた時間を過ごすも、その終わりは唐突に訪れました。
単に別れが悲しかったこともあるでしょう。
しかしそれ以外にも、別れが突然すぎて受け入れられない気持ちや彼女の心が離れたことへの虚しさもあるはずです。
この様子ですと僕はまだ彼女のことが大好きですから、別れを告げたのは女性側だとわかりますね。
となると唐突に嫌われてしまったことへの疑問や、もしかすると女性への怒りなどもあるかもしれません。
それらの感情が複雑に絡み合っている中でピーナッツを食べた僕。
当然食感や味を楽しむ余裕なんてあるはずがないのです。
美味しいはずのピーナッツの味が落ちたと感じるほど、僕の心が荒れているのだとわかりますね。
そして3行目、僕は少しだけ彼女との別れのキッカケを語っています。
熱い恋愛をしていた2人の仲に亀裂を入れたのは、第一に彼女の嘘だったようです。
普段と違う景色
深夜に噛んだピーナッツ
湿気ってるような気がしたピーナッツ
外の月がビー玉
出典: マッチとピーナッツ/作詞:Ichiro Yamaguchi 作曲:Ichiro Yamaguchi
僕は変わらずピーナッツを食べ続けています。味は変わりません。
歌詞も基本的に直前で登場したフレーズと大差ないのですが、3行目だけ大きく変化しています。
月をビー玉に例えているようですから、この日に見えた月は満月だったのでしょう。
しかし僕がいる場所を思い出してください。僕がいるのは、薄暗いダンスフロアの一角でしたね。
つまり僕がいる場所からは月など見えるはずがないと考えられるのです。
ではこの月は一体何なのか。これはきっと、彼女を追いかけて外に出たときに見た月ではないでしょうか。
女性に振られてしまった僕。別れを告げられたのは2人が出会ったこの場所でした。
そのまま外へ出ていく彼女を僕は必死で追いかけます。しかし彼女は止まることなく立ち去ってしまいました。
そんな後姿を呆然と見つめる中、ふと空に目をやった瞬間に見えたのが満月だったのかもしれません。
おそらく彼女に振られてしまったという現実から逃げたかったのでしょう。だからつい空を見上げたのです。
ビー玉みたいに丸いなあ。呑気にそんなことを考えたのかもしれません。
いずれにせよ彼女との別れの瞬間は、満月とともに記憶されているということです。
納得できない理由
深夜に噛んだピーナッツ
湿気ってるような気がしたピーナッツ
あの子の方が真剣だった
出典: マッチとピーナッツ/作詞:Ichiro Yamaguchi 作曲:Ichiro Yamaguchi
僕がピーナッツを食べながら過去に想いを馳せるシーンが続きます。
ここでは悲しみより、怒りに近い感情が綴られているようですね。
僕は彼女が別れを告げた理由について、心当たりがないどころか「おかしい」とさえ感じています。
それは3行目にある通り、彼女は僕に夢中だったと信じているから。
それが女性の演技だったかもしれないなんて微塵も疑わず、すぐに心変わりした彼女を本気で責めているのです。
現実は明らかに、僕の方が彼女に夢中でした。
それはここまで綴られてきた未練がましい態度からも明らかです。
しかし僕はそれに気がつかないふりをしているのか、もしくは本当に気がついていないのか…。
彼女に愛されていたと胸を張っています。