毎日ピアノ教室に通い、少しずつその腕に磨きをかけていったのでしょう。
音楽会やコンクールなどにも出るようになっていたのかもしれません。
そして幼い彼女にもコンクールでいつか一番になるんだという気持ちが芽生えてきました。
大きな大会を何度も経験して、大人になったら世界で活躍するような人になりたい。
そんな「ピアニスト」が彼女の中で、夢になっていったのです。
小さい頃から、将来なりたいものや夢といえるものがあるとそれだけで頑張れるものです。
きっと主人公はひたむきに夢に向かって頑張ってきたのでしょう。
そんな真面目さが、歌詞から伝わってくるようです。
どんなステージよりも幸せなこと
今 あなたに
私のピアノを
聴いてもらってる
それだけで
華やかなステージよりも
しあわせと思った
ありがとう
出典: あなたのために弾きたい/作詞:秋元康 作曲:近藤圭一
ここの歌詞は“今”の主人公の気持ちを綴っています。
これまでは小さな頃のことを回想している歌詞でした。
あんなに小さなころから続けているのが、今回の歌詞のテーマでもある『ピアノ』なのです。
成長し、恋をする年齢になった今、ずっと続けてきたピアノを「あなた」に聴かせています。
幼い時は夢のためにがむしゃらにできたことも、成長していく中で惰性や義務感になることがあるでしょう。
しかし、それでも続けてきたことを今大好きな人に届けられるというのは、うれしい事なのです。
それをこの歌詞から読み取ることができます。
誰もが憧れて、すごいと言われてきたどんなステージもちっぽけに見える程の喜び。
「ピアノを弾く」という同じ行為ですが、目的や相手が違えば自分の気持ちも違うはずです。
彼女はきっとこの喜びや有難さを噛みしめているのではないでしょうか。
ピアノを弾くことがあたりまえの人生だと思っていた
嬉しい時 悲しい時
家に帰ってピアノに向かう
譜面通り 指を運び
おしゃべりみたいに弾いたよ
出典: あなたのために弾きたい/作詞:秋元康 作曲:近藤圭一
中学生、高校生になっても主人公はピアノを続けていたのでしょう。
ピアノが好きなのだと、この歌詞からは十分すぎるくらい伝わってきます。
学校が終わるとすぐにピアノを弾きたくて家路を急ぐ。そんな様子が想像できますね。
この頃になると、自由にどんな曲でも弾けるようになっていたかもしれません。
練習も苦にならず、毎日毎日、どんな気持ちの時でもピアノを弾いていたのです。
例えば友達と喧嘩をしてすごく嫌な気持ちの時も、ピアノを弾くと心が晴れたのかもしれません。
印象的なのが最終行のまるでおしゃべりのようにという歌詞。
ここから伝わってくるのは自然と指が動き、生活の一部になっていたということですね。
夢のために進む道を決めたけど…
音大へと目指しながら
そして気づいた
そう私が夢見るものは
違うとわかった
出典: あなたのために弾きたい/作詞:秋元康 作曲:近藤圭一
ピアノを弾くことが生活の一部となり、当たり前だった主人公の学生時代。
小さい頃からの夢であった「ピアニストになる」というのは変わっていなかったのでしょう。
いつしか自然と音大に通うことを目標にし、ピアノもそのために練習を重ねていたのです。
しかしここでは一転、3行目にあるように、自分の夢が「ピアニスト」ではないことに気が付きました。
1つの夢をずっと追いかけ続け、叶えるというのは並大抵ではありません。
違う夢が見つかるのも当然のことで、何も間違ってはいません。
むしろ本当にやりたいことが見つかったのだとしたら、それは素晴らしいことなのです。
主人公は今、きっと別の夢に向かって進みだしていることでしょう。
ではピアノはどうするのでしょうか?
夢のために続けてきた練習も、もうやめてしまうのでしょうか。
最後の歌詞に、その答えが隠れていました。
ピアノを弾く理由がわかったの
今 あなたに
私はピアノで
話しかけている
この愛を…
何千の観客よりも
目の前の一人に
ありがとう
大切な人のために
心 込めて
この曲 弾かせてください
出典: あなたのために弾きたい/作詞:秋元康 作曲:近藤圭一
昔から弾いてきたピアノは、自分とのおしゃべりのような存在でした。
彼女の生活になくてはならないもので、夢を叶えるために必要不可欠な存在。
しかし大人になるにつれ、彼女は自分の夢が違うことでることに気が付きました。
そしてそれを自分でも受け入れた今、彼女は自然な気持ちでピアノを弾きます。
練習や夢のためではありません。勉強のためでもありません。
目の前にいる大切な人に自分の気持ちを伝えるために弾いているのです。
自分とのおしゃべりだと思っていたピアノが、今では大切な人へ愛を伝えるツールとなったのです。
そして彼女は悟ったのです。「私のピアノをあなただけに聴いて欲しい」と。
最後に
いかがでしたでしょうか。
乃木坂46の生田絵梨花が歌う【あなたのために弾きたい】の歌詞を考察して参りました。
控えめで透明感のある歌声が、まさに歌詞にでてくる主人公と重なり、清楚で儚い印象を与えてくれます。
小さい頃にはじめたピアノ。
ピアノと共に沢山の人生を過ごしてきた主人公。
ピアニストになるという夢があって続けてきたけれど、実は別の夢が見つかりました。
それでも、続けてきたことを否定する必要はありません。
ピアノを続けてきて、生活の一部のようになったからこそ、今、大切な人へ愛を伝える手段にもなったから。
言葉では伝わらない気持ちを、ピアノを弾くという行為で伝えることができたのです。
これはきっと、乃木坂46の生田絵梨花という立場であっても同じなのでしょう。
冒頭に、歌詞解説を「ファン1人1人」のことだと仮定して読んでくださいと書きました。
その姿があるからこそ、ファンに想いを伝えることができている。
ということを、ピアノを続けてきたことと重ねて捉えることができるのではないでしょうか。
彼女が大切なあなたに「聴いてくれてありがとう」と伝える気持ち。
これは私たちファンに向けた言葉でもあるのだと思います。