悲しみと怒りが入り交じったような感覚は、さらにその輪郭を鮮明にします。
「君」の姿が写った雑誌、2次元でしかない「紙」の匂いと感触を「冷たくて涙がでる」と言い表した主人公。
しかし、「さよなら」を告げた生身の「君」もまた、「冷たくて涙がでる」存在になってしまったのです。
それでも、主人公の口をついたのは「二度と会えなくなる気がしたよ」。
この期に及んで再会を期待しているような言葉からは、動揺や未練の大きさが伝わってきます。
「涙がでる」思いの中で広がったのは、「何を信じればいいんだろう」という嘆き。
嘆きはやがて「何を信じればいいんだよ」という、怒りをはらんだ咆哮に変わるのです。
背筋が冷たくなる解釈
恐怖のメロディ
さて、やはり何度この曲を聴いても見えてこないのが、主人公と「君」の関係性。
雑誌に登場するような「君」は、本当に主人公と付き合っていたのでしょうか。
そんなことを考えると、ふと思い出されるものがあります。
クリント・イーストウッドが監督・主演した1971年の米国映画「恐怖のメロディ」。
あるいは、米国の小説を原作に1996年に映画化された「ザ・ファン」(ロバート・デ・ニーロ主演)。
過激なストーカーの恐ろしさを描いた、戦栗の作品です。
つまり、「君」に対する主人公の感情は、すべて勝手な思い込みによるものかもしれない。
「女の子」の歌詞は、そんな解釈も成り立つのです。
何らかのメディアで「君」を知り、一方的に付きまとっていた主人公。
ついに身の危険を感じた彼女は、付きまといをやめるよう意を決して伝えます。
「君に会える」ことに浮かれていた主人公は、まさかの「さよなら」に悲しみと怒りを覚えたのです。
2人の関係性が描かれていないのは、そもそも男女としての関係性がなかったためだったとしたら。
主人公には、突然の「さよなら」の理由がまったく理解できていないとしたら。
「どこに居てもわかったよ」
「こんなのわかってるから」
あるいは「君の匂い君の感触」。
これらは、背筋が凍るような恐怖の響きを持つのです。
それぞれの「I」「哀」「愛」
認め合うこと
前述したような解釈は、あまりにも飛躍しているかもしれません。
しかし、突然の「さよなら」というシチュエーション自体は、決して珍しいことではないといえます。
もちろん、そこに至るまでのプロセスは、さまざまであるとしか言いようがないもの。
「女の子」という曲の「君」と主人公も、「さよなら」に行き着くまでのドラマがあったのでしょう。
はっきりしているのは、「君」と主人公の「さよなら」の受け止め方は、違って当然ということ。
この曲が収録されたアルバムタイトルを借りれば、「I」「哀」「愛」は誰にとっても同じではないということです。
主人公にとって「さよなら」は「哀」ですが、「君」にとっての「さよなら」は、まるで反対のものだった。
そうだとしても、何らおかしくはありません。
人はそれぞれの「I」「哀」「愛」を抱え、他人の「I」「哀」「愛」と折り合いを付けながら生きる。
だからこそ、うまく重なったときの感動(結婚というゴールも、そうかもしれません)は、ひとしおなのです。
それが、「I」「哀」「愛」の本質ということなのでしょうか。
浮き彫りになるメッセージ
「何を信じればいいんだよ」と、よりどころを見失いそうになる主人公。
若い彼が混乱してしまうのも、無理はありません。
「I」「哀」「愛」が人それぞれのものである以上、絶対的な価値観を持つ3つの「アイ」は存在しないといえます。
それは、「さよなら」までのストーリーがあろうがなかろうが。関係のないこと。
自分だけの「I」「哀」「愛」を見失うことなく、ゆっくりと前に進む以外にないのです。
本質の輪郭を曖昧にさせるストーリーを削ぎ落とした、尾崎世界観のシニカルな視点。
シンプルな歌詞から伝わるのは、浮き彫りになった鋭いメッセージにほかなりません。
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